06

新宿で飲むという先輩達に連れられて名前は一週間ぶりに歌舞伎町近くに来ていた。飲み放題コースでドンちゃん騒ぐ先輩達は未成年の一年にもお酒をどんどん持ってくる。かぽかぽ飲み干していく沖田の隣で名前は三杯目のバナナミルクをちびちびと飲んでいた。馬鹿酒は新入生歓迎会で懲りた。ちびちびとしか飲まない名前にもっと飲むように沖田は煽っていた。バナナミルクを焼酎割ろうとしてくる沖田を必死で止める。頼みの綱の土方は先輩に呑まされて潰れかけていた。すでに呂律は回っていない状態の土方を沖田が無音シャッターで写真をとりまくっている。未成年飲酒でなにか合った時脅迫につかうらしい。

「で、相談って何ですかィ?」
「あ、そうそう。近藤先輩についてなんだけど」
「名前……もしかして近藤先輩みたいなのがタイプなんじゃ…趣味最悪でさァ」
「嫌、ごめん違う。友達がさ、なんか先輩にしつこく迫られてるみたいで、彼女悩んでるから、どうにかならないかなって」
「ああ……」
「え、なにその悟った顔」
「志村妙だろ?」
「知ってるの?」
「近藤さんが写真みせてくれやしたよ。ついでにメールも。近藤さんは恋愛経験が皆無なんで中二の恋愛しかできないんでさァ」

ぞぞぞぞぞぞ、と名前の背中に寒気が這い登ってきた。中二の恋愛って……。どうにかならないかと聞いても沖田は「無理ですナ」としか返さなかった。がくりとうなだれた名前は恨めし気に沖田を見る。名前は心の中で妙に全力で謝った。時間はもう二十二時。そろそろ帰りたいな、と思った名前は先輩に一言声を掛けて帰ろうとしたが隣に座っている沖田が地味に足を踏んでくるために立ち上がれなかった。無言で睨みつける名前とほろ酔いで上機嫌の沖田。帰ることを諦めて本格的に飲むことにした。どうせ門限なんてないし、先輩のおごりだ。

「帰らないんですかィ?」
「明日休むわ」
「クズの筆頭でさァ」
「……すいませーん梅酒ソーダ割り一つ」
「ジントニック一つで」

沖田も追加のお酒を頼む。沖田も明日はいかないつもりなのだろう。土方もこの調子だと明日の一限は無理だろう。そう考えると名前の周りにはロクな奴がいない。遠く離れた席で同級生の神威も女の先輩を侍らせていい気になっていた。それを見た名前は店員の持ってきた梅酒を舐める。ははーんと沖田は口元を歪めた。

「名前、もしかして神威のこと気になってるんですかィ?」
「別にねえ」
「へー。あいつ彼女できたらしーぜ」
「知ってる。神威から聞いた」
「お、仲良かったっけ?」
「そこそこに」

沖田と名前が神威の方を見ながら会話すると、こっちを向いた神威がひらひらと手を振った。ばーか、と口パクで伝えると沖田が口笛を吹いた。


■ ■ ■


解散になった後、なんとなく誰かに電話をしたくて電話帳を開き、猿飛の名前をタッチした。猿飛ならまだ起きてるだろう。コール音の後、でろんでろんに酔っぱらっている猿飛が出た。声がこもってなにを言っているのかわからない。新宿の駅前のベンチに腰掛けながら必死に声を聞き取ろうとしても酔っ払い集団の笑い声等で一向に聞き取れなかった。少し焦る。

「さっちゃん?もしもし?」
「……」
「あんた今どこいるの?」

がさがさと音がした後、違う人が出た。「もしもし?」と繰り返すこの声は、どこかで聞いたことがあった。男の人の声。猿飛は一体何をしているのか。最悪の状況も想像しつつ名前は低い声に敵意を込めて「誰ですか」と尋ねてみた。一向にクリアにならない音声と聞こえなくなった猿飛の声。先ほど自販機で買ったお茶を口に含んで焦る心を落ち着かせた。雑音が消えた。

「もしもし」
「あー俺だよ。攘夷の銀時。名前ちゃん覚えてる?」
「あ、はい。なんで銀さんがさっちゃんの携帯持ってるんですか。彼女にかわってください」
「こいつ泥酔してて……寝そうな勢いで困ってるんだよ」
「未成年に酒飲まさないでくださいよ」
「来た時には飲んでたんだよ…ったく。こいつの住所とかわかる?最悪一人でタクシー乗せちゃうから」
「……お店、歌舞伎町ですよね」
「そうだよ?」
「今新宿なんで向かえに行きます。さっちゃん起こしておいてください。後、大体の場所教えてください」

やっぱり猿飛の好きな人は銀時だったよ。名前は酒臭い溜息を吐きながら、重すぎる腰をあげた。猿飛の住所はしらないから名前の家に泊めるしかないだろう。来客用の布団なんかないが、女同士、なんとかなる。駅から歩いて15分のクラブ攘夷の看板の下で銀髪と紫色の長い髪を見つけた。本当に泥酔状態の猿飛の頬を叩き、銀時の肩から受け取る。意外に重い。

「……ご迷惑をおかけしました」
「こっちこそ悪かったな」

がしがしと銀髪を掻く銀時に一応頭を下げて、猿飛の腕を自分の肩にまわした。重い。高めのヒールのせいでふらふらしているが、歩けないこともないだろう。早くしないと終電が行ってしまう。タクシーなんて選択肢は貧乏学生にはなかった。しつこいキャッチを適当に受け流しながら信号待ちで大きく息をつく。今度食堂でなにか奢ってもらおう。

「よォ。お前……何してんだ?」
「あ」
「こいつは…」
「あなたのクラブで潰された子ですよ。おかげで大迷惑です」
「お前今日来てたのか」
「いや、私はたまたまサークルの飲みだっただけです。迎えに行って、我が家に泊まらせようかと。どうせ明日大学行きませんし」
「休講なのか?」
「……自主休講ですね」

不意にスマートフォンを取り出した高杉はどこかに電話をかけだした。信号が変わる。歩きだした名前の腕を掴んでとどめた高杉は「自主休業だ」といった。仕事をサボる気らしい。呆れる名前の耳に志村と呼ばれた人の絶叫が通話口から聞こえてきた。

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