03


外に出て暖かいと感じるほどにメディアセンターは空調が効きすぎていたせいで鳥肌が立っていた。名前は羽織っていたパーカーの前のジッパーをあけて温度調節をする。共にメディアセンターに居たアニも同じように感じたらしく、あったかいと呟いた。アニは次の時間帯に講義が入っているらしい。名前は空きコマのため、部室にいくかカフェテリアでお茶をするか迷っていた。名前のスマートフォンにジャンからメッセージが届いた。

「ごめんアニ。私、部室に呼ばれちゃったから行くね」
「ああ。いいよ。どうせもう教室いくつもりだったし。じゃあ、またね」
「じゃあね」

名前の足はカフェテリアではなく部室へと向かった。ジャンに詳しいことを聞くと、レベッカの高校時代の友人と母親に依頼された探偵が来ているらしい。レベッカと連絡が取れなくなって一ヶ月。名前はスマートフォンに写る自分を消すように画面を拭った。



エレン達の使っている部室は階段のすぐ側にある。リヴァイの耳は階段を小走りに登ってくる足音を捉えていた。その足音は扉のすぐ前で止まっている。息を整えているのだろうか。リヴァイはペンを回していた手を止めた。

「レベッカと名前は親友でした」
「レベッカと最後に会ったのも、もしかしたら名前かもしれませんね。バイト先とかも知っていると思いますよ」

ジャンがそう言った時、部室の扉が開いた。リヴァイとペトラは扉の方に体を向けた。そこにいたのは勝ち気な目と黒髪の長い髪が印象的な女だった。彼女はミカサとアイコンタクトを取る。エレンが彼女のために用意した椅子を引き、名前はそこに座った。

「はじめまして。名前・名字です。レベッカの件でと聞いたのですが……」
「ええ。あなたとレベッカが親友だったって彼らから聞いたわ…彼女から連絡はありませんか?」
「最後に着信があったのは三週間前です。一ヶ月前までは毎日メッセージでやりとりもしていたんですけれども、既読通知がつかない状態で……でもいきなり着信が来たんです。不在着信でしたけれど」
「見せてもらえる?」

名前は黒い鞄の中から白いスマートフォンを出した。着信履歴を表示させてペトラの前に出す。確かにレベッカからの不在着信はあった。発信履歴をリヴァイは見る。名前は二週間前までレベッカに電話をかけ続けていたようだ。応答はなかったようだが。礼をいって彼女にスマートフォンを返す。

「レベッカがトラブルに巻き込まれていたという話は聞きませんか?なにか悩んでいたとか」
「友人関係や恋愛関係での相談は受けていません。ただ…その、自分の家が嫌いだとは言っていました。レベッカは母子家庭であることを気にしていたようで。言い方が悪いですね。母親からのプレッシャーを気にしていたんです」
「プレッシャー?」
「お母さんに沢山迷惑をかけてきたから、勉強も人一倍頑張っていい会社に勤めて恩返しをするんだって言っていました」
「ほう……」

リヴァイは目を細めた。レベッカは奨学金をもらって大学に通っていたらしい。一定の成績を維持しないと奨学金はもらえなくなってしまう。そのプレッシャーもあったのだろう。エレンが名前に聞いた。

「レベッカのバイト先ってどこだっけ」
「今やっているのはバーって聞いたわ。家と大学の丁度真ん中くらいにあるバーだって。その前は確かパン屋で働いていたはず。朝五時から働いているって言っていたわ」
「あー。確かに言っていたかもな。飲み会の早退理由で聞いた気がする」
「そうそう。朝早いからってでも店の名前は教えてくれないんだよね。来られると恥ずかしいって言っていた」
「名前が知らないなら他に知っている奴はいなさそうだよな」

名前は困ったように苦笑いを浮かべた。リヴァイはボールペンを指でくるくると回す。気になることがあった。名前がリヴァイと目を合わせようとしないのだ。意図的に合わせないようにしているようで、仮に視線があったとしても流されてしまう。だが、リヴァイ自身を嫌悪している様子はない。人見知りだとしたら、ペトラと普通に話しているのもおかしい。何か隠し事をしている様子も見られないことから、自分の人相の成果と結論付けた。

「レベッカの働いていた店がある駅名はわかるか?」
「確か………ウォール駅?」
「ウォール駅かよ。特定は無理そうだな。あの駅にバーは腐る程ある」
「その他に特定できそうなものは覚えているか?」
「えっと、私服で働いてるとか言ってたかも。買い物付き合ったし」

エレンとジャンと名前の会話で得た情報を手帳にメモしていく。ウォール駅は複数の路線のターミナル駅だ。仕事帰りのサラリーマンのための飲み屋など腐る程ある。そこでは私服可のバーも数え切れないほどあるだろう。もっと絞れる情報がほしいとペトラとアイコンタクトを交わした。

「彼女の母親はバーで働いていると知らないみたいだが…聞いたところただの居酒屋だと言っていたが」
「居酒屋?バーって言ってたんですけど…メッセージ確認してみますね」

名前はレベッカとのメッセージのやりとりを確認してみた。だいぶ前に話題に出た気がする。上へ上へスクロールしていくとアルバイトの話になっていた。

「やはりバーって言っています」

名前は画面を見せた。確かにレベッカは自分のバイト先をバーだと言っている。母親には嘘をついていたのだろうか。リヴァイはクエスチョンマークを書いた。メッセージを見返した名前は心なしか元気を無くしている。そんな名前をジャンは心配するように見ていた。ペトラは時計に視線を走らせる。名前の様子からもこれ以上話そうとする素振りは見られなかった。

「また、何かあったらお話を聞かせてください」
「ええ、惜しみなく協力させていただくつもりです」

ペトラとリヴァイが立ち上がるとアルミンをはじめとして部員も立ち上がった。二人を見送る。階段を降りきったあと、リヴァイは胸元のネクタイを緩めた。ペトラはカバンの中の録音機の録音を止める。レベッカが自らの意志で家を出た可能性が浮上しただけ収穫はあった。リヴァイはもう一度彼らがいた建物を振り返り、眉を寄せた。

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