01


スミス探偵事務所の受付にいるペトラは疲れきった顔をした四十代半ばの女性が差し出した写真を見て心を痛めた。本当は予約をしてから来ていただきたかったが、そうも言っていられない状況なのだろう。スケジュール帳を捲り、今の時間にオフィスにいる人を確認する。エルヴィン社長は居ないが、リヴァイさんとグンタはいる。受付に備えられている電話の受話器を持ち上げた。出たのはグンタだった。

「もしもし、ペトラです。今お客さんがいらっしゃっていて行方不明の娘さんを探してほしいらしいのですが、応対できますか?」
「あー。俺はこれから迷い猫の捜索に行く予定なんだけど、ちょっと待ってくれよ。リヴァイさんに聞いてみる………できるってさ。四階にあげてくれ」
「わかりました」

ペトラが電話する様子を藁にもすがる用に見ていた依頼人はペトラが頷くとほっと肩を下ろした。受話器を元の位置に戻したペトラはテーブルの中からバインダーと記入用紙を取り出した。ボールペンと一緒に渡す。

「そちらの椅子におすわりになって、この用紙に従って記入をお願いします。ご記入が終わりましたら声をかけてくださいね」
「ありがとうございます……」

受付の隣の部屋に案内した。ペトラは依頼者である母親が持ってきた写真に見覚えがあった。つい最近までニュースで見た気がする。然りげなく依頼人を観察すると疲れきったようなため息をついている時だった。書き終わったらしい彼女はゆっくりと立ち上がり、ペトラに用紙を渡す。全ての項目がきちんと記入されているのを確認したペトラは受付の奥の扉のロックを解除した。

「その扉を入っていただき、すぐ右手にあるエレベーターで四階にお向かいください。担当者がお待ちしております」
「はい……」

依頼人の姿が扉の奥に消えた後、ペトラは彼女が書いた書類をスキャナーで読み取ってリヴァイのデバイスへと送った。オフィスにいるオルオにメッセージを飛ばしてコーヒーの準備をさせた。監視カメラの様子を自分のパソコンで見ると、依頼人はきちんと四階についたようだ。扉の前で待っていたリヴァイが彼女を連れて部屋に入って行った。


防音完備の個室に入ったリヴァイは、自己紹介の後、ペトラから送られてきたデータを見ながらオルオが持ってきたコーヒーにミルクを入れた。依頼人は沈んだ表情でリヴァイから声をかけられるのを待っている。

「娘さんのお名前はレベッカ・ハルケさんですね。大学二年生。先月の五日から自宅に戻っていない、行方不明だということですね。トラブルに巻き込まれた形跡もないと……ほう」
「警察にも相談したのですが、成人済みということもあって一般家出人扱いにされてしまいまして」
「一般家出人は警察も積極的に探しはしねえからな。普段の巡回や交通の取り締まりで見つかる事を祈るしかないな」
「あの子は母子家庭の私を本当に心にかけてくれていたんです。私に何も言わずに失踪するなんてありえません!」
「……まあ、家出の可能性も含めて探してみよう。レベッカさんが親しくしていた友人の名前はわかりますか?」
「大学の友達で、名前さんという名前をあの子からよく聞きました。姓はわからないのですが……」
「もっと詳しい情報が知りたいんだが、サークル名とかはわからないのか」
「わかりません……」

母親は沈み込んで行く。仕事をしているせいで娘とあまり話せていない事をありありと思い知らされたのだ。リヴァイはとりあえず依頼を受ける事にした。今抱えている依頼は調査が終わっているため、明日には片付く。丁度良いタイミングだった。頭を下げて返って行く母親を見送り、リヴァイはエルヴィンに依頼内容のメールを飛ばした。


■ ■ ■


マリア大学の二年生で社会学を学んでいたというレベッカについて聞くため、リヴァイはマリア大学に来ていた。本来ならば母親と共に聞き込みをしたいところだったが、母親は仕事を休めないという。そのため無理を言ってペトラに来てもらっていた。男一人で行方不明の女性について聞き込むのは警戒されそうだからだ。大学にとけ込んでいるペトラと違い、スーツのリヴァイは浮いていた。

「お母さんが昨日学事の方に聞いたところ、レベッカさんはバスケットサークルに入っていたようです。マネージャーだったようですね。二年生なのでまだゼミには入っていないようです」
「サークルの部室に行ってみるか」
「ええ。今なら昼休みですし部室でたむろっている学生も多いでしょう」

ペトラの手帳には部室の位置も書かれていた。西館G棟の三階らしい。リヴァイとペトラは平日の大学構内を歩き、部室棟のある西館へと進んだ。夏も終わりかけのせいかとても涼しい。ペトラもカーデガンを羽織っていた。G棟はアパートのような作りをしていた。運動系のサークルが集まっているらしくエレベーターなんていうものはなかった。

prev next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -