20

リヴァイは名字と共に映画館に来ていた。先日、映画の話になりその流れで行くことになったのだ。三国志をテーマにした映画はレビューどおり、完成度も高く満足の行くものだった。夕方から待ち合わせたので映画が終わる頃にはとっくに日もくれていた。

「何か食べたいものはあるか?」
「次長にお任せします」
「…イタリアンでいいか」

以前行ったことのある店がこの近くにある。出勤時とは変わって華やかさが増した名前はおしゃれな町並みに負けない存在だった。いつもは薄いピンクで飾った唇も今日は華やかな赤いルージュで彩られていた。甘い香水の匂いがリヴァイを誘惑した。

「次長?」
「ここは会社じゃない。変にかしこまらなくてもいい」
「そういわれましても…」

首を傾げた名字の胸元で巻いた髪が揺れた。店に着くと奥の席に通される。半個室の席は落ち着けていい。メニューを差し出された彼女はトマトとカニのパスタに決めた。リヴァイはワインと生ハムのサラダも注文する。遠慮するな、と言った。

「今日はよく眠れたのか?隈が随分薄いようだが」
「ここ最近は眠れるようになりました。まあ、まだ夢は見るんですけど頻度は下がったので」
「そうか」
「そのうち見なくなるんでしょうね。それはそれで寂しいかもしれません」

運ばれてきたワインをリヴァイがテイスティングした。頷くとウエイターは二人にワインを注ぐ。ちん、とガラス同士をぶつけあい、乾杯をした。課の業績向上を願って、と笑う名字。仕事の話はそこそこに彼女の見る夢の話に話題は移った。リヴァイはどうやらこの話に恐ろしく興味を惹かれるらしい。

「エレンが巨人化して…」
「ほう」
「審議会で、兵士長に蹴り飛ばされていましたよ。歯がぽーんって飛んで」

名字が頬を抑える。エレンが巨人化して捕まったらしい。それを調査兵団に組み込むためにエルヴィンが手を打ったと。結局次回の壁外調査で人類にとって有益かどうか見極めるらしい。エレンの監視はリヴァイに委ねられた。運ばれてきたパスタにフォークを絡ませながら名字は夢の話を続ける。

「ハンジさんが大興奮でしたよ。今直ぐエレンの実験をするんだって聞かなくて。モブリットが部屋に閉じ込めて必死に抑えこんでいました」
「お前はハンジの部下なのか?」
「最初はハンジさんの部下として班に編入されていたみたいですけれど、少し前からは兵士長のもとで仕事しているみたいです」
「俺の下でか…」
「その、ハンジ分隊長の下で働くと研究続きで食事も睡眠もお風呂もおろそかになってしまって…一応女ですし…。たまたま兵士長がその惨状をご覧になられて引き抜いてくださったんです。根性はあるようだし、と」
「そうか」
「…ふらふらになりながら書類を届けたら不潔だと罵られていきなり井戸の水をかけられたんですよ、私」

恨めしそうに見られても困る。しかし、三日間風呂に入っていない姿で書類を渡されたら今のリヴァイでも水をかけるだろう。カルボナーラを食べながらリヴァイは想像して眉を寄せる。どうやら夢のなかのリヴァイは粗暴な人物らしい。

「でも兵士長は本当に強いんですよ。私も危ないところを助けていただきました。一瞬で巨人を二体も倒すんです。私なんか足元に及ばなくて」
「……」
「そういえば、特別作戦班っていう班が新しく作られたんですけど、其れに選ばれなくて…どうしてなんでしょうね。一応兵長の部下として献身してきたつもりなんですけれども」
「俺が知るか」
「えー。一緒に考えてくださいよ。私結構凹んだんですよ。ペトラとオルオとエルドとグンタが良くて私がダメな理由ってなんでしょう」

リヴァイはプロジェクトメンバーを思い出した。ペトラとオルオ、エルドとグンタにエレンを足したメンバーを先日エルヴィンに決定と送った。どうして名字を入れなかったのか。彼女の業績は悪くない。このプロジェクトでも十分活躍できるだろう。だが、いれなかった。

「次の為に温存したかったんじゃないのか?」
「次?」
「その特別作戦とやらの後になにかあるんじゃないのか。その為の戦力温存だと思うがな」
「…なにかあるんでしょうかね?」
「知らねェよ」

ワインを飲み干したリヴァイはシャンパンを頼んだ。爽やかな葡萄の香りが胸のなかを通って行く。パスタを完食した名字は残ったサラダをつついた。

「夢が途切れ途切れで思い通りにいかないのが嫌ですね」
「思い通りになる夢なんかないだろ」
「私、夢の中の兵士長に恋しそうです」

頬を赤く染めた名字は冗談交じりに笑う。リヴァイがいるだけで士気は上がり、希望が見える。絶望的な壁外調査においてリヴァイが側にいるということはなによりの安心だった。彼は決して部下を見捨てない。危険地帯に自ら飛び込んでいっても、必ず戻ってくる。ヒーローです、と話す彼女を見て、リヴァイは家で待っているだろう名前をめちゃくちゃに甘やかしたくなった。

prev next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -