名前が写真に写らないことが判明したあの日からリヴァイは避妊をしなくなった。今のところ月のものは止まっているため妊娠する可能性は限りなく低いが、万が一妊娠してしまったらどうするつもりなのだろう。名前には戸籍がない。つまり生まれた子にも戸籍がない。だが、リヴァイを問いただすことはできなかった。
「あれ?ここにあったはずなんだけど」
リヴァイが本屋に買い物に行っている間、名前は掃除ついでに自分の持ち物を探していた。元の世界の話を聞き、気になったのだ。だが、クローゼットのなかに名前の持ち物はなかった。どこかに移動させてしまったのだろうか。名前はちらりと玄関の方を見た。まだリヴァイが帰ってくる気配はない。
「探しちゃお」
クローゼットを片っ端から開けて中身を探っていく。大半は今の季節には着ないリヴァイの私服だった。ここにはないようだ。此処にないならば、リヴァイの寝室だろうか。名前は少し迷った。勝手に部屋に入られるのは好ましくないだろう。カモフラージュとして掃除用具を持ってリヴァイの寝室に入る。クローゼットを開け、中を物色する。真ん中の引き出しの奥から見覚えがある物がでてきた。
「…調査兵団の、マント?」
緑色のマントに自由の翼のエンブレムが貼られたそれの裏には名前・名字と名前が書かれていた。名前のものに間違いない。だが、名前が洗濯機の中にいたときにはマントを着用していなかった。どうしてリヴァイがこれを持っているのか。ひとまずそれを元の位置に戻した彼女は残りの服の捜索を開始した。クローゼットにはない。
「ベッドの下とか…?」
リヴァイのベッドの下には高さ三十センチほどの収納スペースがある。当たりだった。綺麗にたたまれたジャケットにパンツ、シャツとベルト。下着も袋に入れられていた。あとは立体機動装置がどこにあるかだ。このスペースには入らないだろう。部屋を見渡す名前の耳に玄関のドアが開く音がした。慌てて部屋を出て、リビングの掃除をしているように振る舞う。
「…おかえりなさい」
「ああ。昼飯を買ってきた。キリがいいとこで食べるぞ」
「はーい」
ハタキやクイックルワイパーを元の場所に収納し、弁当を温めるリヴァイの側に行く。リヴァイが買ってきたのはカツ丼だった。名前の好物である。
「冷凍庫に入れとけ」
リヴァイはアイスクリームを名前に渡した。バニラアイスを買ってきたのだと言う。最近の名前のマイブームはミルクアイスの食べ比べだ。リヴァイはそれに付き合ってくれている。本人曰く、アイスはそこまで好きでもないらしい。電子レンジが温め終わったことを告げた。
■ ■ ■
リヴァイの部屋で目を覚ました名前は枕元に置かれたシャツを羽織った。汗ばんだ身体に布団は熱い。そっと抜けだした。リヴァイはまだ目を覚まさない。息を殺した名前の耳に微かな寝息が聞こえた。水を飲み、戻ってきた名前は音を立てないようベッド下の引き出しを開けた。昼間見つけたとおり、名前の服が置いてある。部屋に姿鏡を見つけた彼女はそそくさと服を着こみ、鏡の前に立った。やはり立体機動装置がないと違和感がある。
「……」
リヴァイが小さく寝言を言った。過剰に反応した名前は慌てて振り返る。そして机の下のダンボール箱に気がついた。足音を殺し、箱を開くとそこには立体機動装置と信煙弾がはいっている。見つけてしまった。腰に立体機動装置を付けて信煙弾をしまう。再び鏡の前に立つと見慣れた姿があった。心臓を捧げる仕草をする。
「…名前?」
後ろからリヴァイのくぐもった声が聞こえた。背を硬直させ、鏡越しに彼を見る。寝ぼけているのか、ぼんやりと名前を見つめるばかりで何を言うでもなかった。いつもは鋭いその目つきも今は淡い。枕から頭だけを起こしていた彼は睡魔に負けたのか、再び沈んだ。心臓がドキドキと鼓動を撃つ。そっと近づくとリヴァイの手が名前の手首を掴んだ。
「なにをしている?」
「たまたま見つけたもので…リヴァイさん?」
「……」
意識が覚醒しだしている。これはまずい状況かもしれないと察した名前はなるべくリヴァイを刺激しないように落ち着いて答えた。起き上がったリヴァイが名前をベッドの上へと引き上げる。されるがままの名前は彼の這いずりまわるような視線を夜の闇のなかで感じた。
「そんなもんを着けてどうするつもりだ」
「どうするつもりもないですよ。ただ懐かしくなっただけです」
「…脱げ。いや、いい。動くな」
上半身は裸のままのリヴァイが名前のマントを脱がせにかかった。ジャケットも剥ぎ取られ、ベルトに手を伸ばされる。外し方がわからないのだろう。引っ張っては離し、を繰り返す。そのたびになめした皮のベルトが名前の肌を打った。
「リヴァイさん、痛いです」
「だろうな」
「やめてください」
「…なあ、兵長って呼んでみろよ」
ニヒルに口角を上げたリヴァイに名前は凍りついた。ベルトのホックを見つけたリヴァイは次々にそれを外していく。ほら、早く呼べよ、と名前を煽る。立体機動装置が外され、床に置かれた。
「名前」
耳元で甘く息を吐かれる。はぁ、と生暖かい空気が名前の背に電流を走らせた。肌蹴た胸元に再び赤い華が咲いた。呼べよ、とリヴァイは繰り返す。リヴァイの膝の上には自由の翼のエンブレムがついたマントがある。嫌だ、と首を振る名前にリヴァイは仕置だといってその肌をぴしゃりと叩いた。背中が、臀部が、腿が赤く染まっていく。ついに折れた名前が兵長、やめてくださいと蚊の鳴くような声で言うと満足気にその手を止めた。