リヴァイは名前にプリントアウトした同僚たちの写真を渡した。写真という概念がなかった名前はよくできた絵だと褒める。説明がめんどくさくなったリヴァイは曖昧に頷いた。プリンターから吐出される写真を眺め、名前は本当に嬉しそうに笑った。ラングナーと写る自分を見つけ、感嘆した。
「ねえ、リヴァイさん。リヴァイさんが大きく書いてあるものはないんですか?」
「ねえな」
「えー」
名前はリヴァイの写真が欲しいとごねた。頬をふくらませる名前にリヴァイはスマートフォンのカメラを向けた。画面の中に頬をふくらませる名前が収まる。シャッター音が鳴り、反応した彼女の肩が跳ねた。
「今の何です?」
「……」
「リヴァイさん?」
画面を見つめたまま沈黙するリヴァイの腕を引き、ソファーに座らせた名前は、彼の持つスマートフォンを覗きこんだ。そこにはただのソファーが写っていた。これがどうしたというのだ。沈黙していたリヴァイは名前の肩を抱き寄せ、インカメラにして自分と彼女を画面に収める。ちゃんと二人共いる。しかしシャッターを切った後に写っていたのはリヴァイだけだった。不自然に宙に浮いた腕がどういうことかを物語っている。
「まあ、本来私はここにいない人間ですし…」
「そうだな…」
名前が異なる存在というものは認識していた。それを踏まえた上で共に過ごしてきたが、こうも明らかに示されるとどうも納得出来ない。スマートフォンを放ったリヴァイは名前を頭を抱き寄せた。名前もリヴァイの身体に腕を回す。お互いの心臓は同じリズムで動いていた。
「なあ、名前よ。お前が妊娠したらどうなるんだろうな」
「え?」
「そもそもお前は俺の子を宿せるのか?」
ぐっと力を入れられた名前の顔が僅かにゆがむ。肩に指が食い込んできているのだ。低い声で尋ねるリヴァイの様子がいつもと異なり、不安になった名前が体を離そうとするが、その抵抗はリヴァイによって押さえつけられる。
「い、痛いです」
「お前に永遠を望む俺が間違っているのか?」
腰に回っていたリヴァイの手がシャツの中に入ってきた。今からリヴァイが何をしようとしているのか、名前はわからないほど鈍くはない。ただ不安だった。拒むことはしないものの、乗り気ではない名前を煽るようにリヴァイは動く。
「私はいなくなりませんよ」
「はっ、どうだろうな?そもそも此処に来たのもお前の意志ではないだろう。ならば戻るときもお前の意志が関係していない可能性が高い」
「帰れる可能性もいまのところありませんから」
洗濯機があちらとこちらをつないでいるのかと思ったが、宝くじの一件からそれは違うようだと結論つけた。恐らく、向こうからの一方通行なのだろう。そのことを話すとリヴァイは顔を上げた。彼女のマントのことはまだ言っていない。
「名字が夢でお前の世界を見ている」
「……」
「どうしてだろうな」
黙った名前の服に手をかけたリヴァイは呆然とする彼女の頬を軽く叩いた。異変は確実に起こっている。名前はこの世界にいる自分に会いたくなった。彼女から話を聞きたいのだ。シャツをまくり上げるリヴァイの手を抑え、名前は彼女に会わしてもらえないかと頼む。
「会ってどうするつもりだ?」
「その人がどのような夢を見ているのか知りたいんです」
「なら会う必要はない。俺はもう聞いている」
驚く名前にリヴァイは最近、名字とよく食事に行っていると話した。食事に行くリヴァイと名字の会話はほどんど彼女の見る夢についての話だ。リヴァイには名前の顔が嫉妬でゆがんだように見えた。そういえばこいつはジムで話しかけてきた女インストラクターにも妬いていたらしい。
「家族が疫病で死んだ。お前は優秀な兵士だったようだな」
彼女が最初に見た夢は、所属兵団を決めた時の事。憲兵団に行く予定だった名前だったが、ハンジに直接引き止められたのだ。座学の卒業演習で提出した論文がハンジの目に止まったらしい。彼女の熱烈な勧誘というか足止めにより、名前は憲兵団の勧誘式に出席できなかったのだ。今、思い出しても苦笑いしか出てこない。次に名字が見たのはハンジの命令で巨人の実験をする場面。痛覚の確認や光の遮断。巨人の身体から武器を作れないか、など。爪をはがしながら発狂するハンジを見ながらモブリットと共に睡眠時間がほしいとぼやいてばっかいた。
「名前。お前の世界で俺とおまえはどういう関係だったんだ?」
その問いに名前は口を噤んだ。リヴァイは彼女から聞いたのだろうか。答える気はないらしい名前は側に置かれたリヴァイの手を取り、指を絡める。どうして名前は答えたくないのだろう。ここにいるリヴァイと名前の言う兵長は別人物のようなものだ。だからどういった関係だったからといって今が代わるわけがない。
「名字に聞けばいい話か」
名前は不服そうに眉を寄せたがそれ以上何も言わなかった。彼女の視線がリヴァイからソファーの後ろのクローゼットに移った。一番上に収納されているのは名前が着てきた服と立体機動装置と、この間発見した信煙弾である。リヴァイは彼女の視線を追い、不機嫌になった。