17


名前は日課の洗濯物をしていた。洗濯機を回し、洗い終わった洋服をハンガーにかけてベランダに干す。ひと通り干し終わったあと、手を洗うために洗面所に戻ってきた名前は洗濯機の中にものが残っていることに気がついた。先ほど取りこぼしてしまったのだろうか。ひょいっと覗き込むとそこには布ではないものが転がっていた。信煙弾だ。

「どうなってんの?この洗濯機?」

ふと思いついて名前はリヴァイからもらった黒い財布を取り出した。はずれた宝くじを取り出し、一枚洗濯機のなかに入れる。そしてそれを見続ける。だが何も変わらない。この洗濯機があちらと繋がっているかもしれないという仮説を立てたのだが、どうやら間違っているようだ。残念、という気持ちもあって名前は蓋を閉じる。

「帰れるのかなあ…ってか向こうで私ってどうなっているんだろう」

涸れ井戸に落ちたはず。そこそこの高さから落ちたはずだが、生きているのだろうか。井戸に落ちて死ぬだなんて、壁内で死ぬには情けなさすぎる。洗濯機に凭れ掛かりながら名前はいろいろなことを思い出していた。此処に来てからもう三ヶ月以上経っている。帰れるような見込みはまだない。

「壁外調査はどうなってるのかな…ってかエレンはどうなったんだろ」

一ヶ月後に壁外調査とエルヴィンは言っていた。その時間はとっくに過ぎてしまっている。果たしてエレンはどうなったのか。鬱々とした気分になった名前はリビングに戻りソファーで横になった。仮眠を取ろうと目を閉じた。二時間ほど仮眠を摂った後、ベランダの洗濯物を回収した。そういえば、宝くじを洗濯機の中にいれたままだ。ひょいと中をのぞき込むと、それは確かに底に存在していた。


■ ■ ■


「リヴァイ、最近名字と何かあるんじゃないかって噂になっているようだが」
「は?」
「実際のところ、どうなの?」

エルヴィン達と机を囲んで食事をするのも久しぶりだと思っていたリヴァイは、エルヴィンとハンジから投げられた質問に間抜けな声を上げた。とぼけるリヴァイにハンジは詰め寄る。鼻息荒く近づく同僚にリヴァイは嫌そうな視線を向けた。

「だって最近よくランチ行ってるじゃん」
「こないだ迷惑をかけたからごちそうさせてくださいって言われたからだ」
「何回も?」
「部下に奢らせるわけにもいかないから交互に出しているだけだ」
「…ふーん」

にやにやしているハンジは意味ありげな視線をモブリットに飛ばした。そういえばモブリットは名字と同期だったか。コンビニで買ってきたらしいサンドイッチを口に含んだモブリットはハンジからの視線を受け止めてたじろいだ。上司の意図がわからない。

「課長。なんですか?」
「名字って恋人いたっけ?」
「俺の知っている限り居ませんが。まあ。人気は高いですよ」
「ふーん」

だからなんだ、とリヴァイは眉間に皺を刻んだ。今のリヴァイには名字とどうこうなる気はない。ただ、親しみがあるだけだ。下手な噂を立てられるのはどちらにも迷惑だろう。少し気を配ろうと思った。

「生憎だが俺は誰とも付き合う気はない。手のかかる奴は家の猫だけで十分だ」
「あらら」
「そういえば、猫の名前をまだ聞いていなかったな…」

名前と交際することはない、と断言したリヴァイに食堂の目が少し向いた気がした。目が向くというより、リヴァイの視界の端で勢い良く振り返った影がある。エレンだ。どうやら聞き耳をたてていたらしい。エルヴィンにもそれは見えていたらしく、苦笑いを浮かべる。職場恋愛は自由だが、人間関係がこじれてしまっては困る。

「猫になんて名前つけたの?」
「……」

ハンジの興味は猫に移ったようだ。名前は?と聞かれてリヴァイは言葉が詰まる。全く考えていなかった。

「まさか名前付けてないの!?」
「…ああ」
「えー可哀想。じゃあ何て呼んでいるの?」
「おい、とか猫、とか」

信じられない、とハンジは言った。モブリットも、それはちょっと…と言葉を濁す。そういえば、まだ写真を名前にあげていなかったと思いだしたリヴァイは今夜プリントをしようと決めた。気まずい空気にスマートフォンを取り出したリヴァイはメールの受信ボックスをタッチする。エルヴィンの目がちらり、と動いた。

「リヴァイ。今夜一杯どうだい?」
「今日は無理だ」
「なら開いている日をメールしてくれ」
「了解した」

未読メールの一番上には名前・名字の名前。Re;の数はぱっと見では数えられない。女を寄せ付けない空気を持っていた友人に見えた影にエルヴィンは口角を上げた。名字はいい部下だ。彼女ならばリヴァイともうまくいくだろう。プチトマトを咀嚼しながらエルヴィンはリヴァイの横顔を眺める。

「ジロジロ見るなエルヴィン。気持ち悪い」
「安心してくれ。私にゲイの趣味はない」
「あったら大問題だが、お前もいい年して一人だとあらぬ噂を立てられるぞ」

ハンジが拭き出した。モブリットがため息を付きながらタオルを渡す。長らく恋人がいないとゲイ扱いされるとリヴァイは言っているのだ。その言いようから言われたことがあるようだ。誰かに言われたのかい?と笑みを噛み締めながらエルヴィンは尋ねた。

「次長と部長ってホモなんですか?と聞かれたことはある」

心底嫌そうに顔を歪めたリヴァイ。その顔にハンジはまた吹き出し、笑い出した。リヴァイに直接聞いたその人物の勇気に拍手だ。さすがのエルヴィンもその言われようには顔を引き攣らせた。最悪のランチタイムだった。

prev next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -