16

 
日曜日だというのにいつものように目が覚めてしまった。隣で熟睡する名前の寝顔をぼんやりと眺めていると、洗濯機の回る独特な音がした。乾燥は昨夜終えたはずだから、電源が入っているはずはない。布団から出て、音のする方に近づくと案の定電源は入っていなかった。しかし、蓋がしっかり閉まっているそこからはごとごとと音がする。リヴァイは意を決し、蓋を開けた。

「は?」

そこに入っていたのは緑色のマント。背中のエンブレムには見覚えがある。名前が着ていたジャケットの胸についていたものだ。調査兵団のエンブレムである。リヴァイは薄汚れたそれを手に取り、少し悩んだあと、洗濯することにした。洗剤を入れ、柔軟剤をいれ、スイッチを押す。すると先ほどの音を鳴らしながら洗濯機が回り出した。なんとなく、名前にはこのことを伝えたくなかった。

寝室に戻るとあくびをする名前が起きていた。右側の髪が跳ねている。ぼんやりとする彼女はぱたりと布団に倒れこんだ。目を閉じて布団をまさぐる。どうやら寝足りないらしい。起こすのも可哀想なのでリヴァイはそっとしておくことにした。朝食を作ってしまおう。

「名前よ、お前の好きなフレンチトーストだぞ」
「食べま、す」

大あくびをしながら洗面所に向かう名前。顔を洗い、口を濯ぎ、甘い匂いのするリビングに戻るとリヴァイが紅茶を淹れていた。暖かいミルクティーに目を細める。ふわふわのフレンチトーストは名前が特に気に入っているものだった。甘ったるいとリヴァイは言うが、名前にとってこの甘さがなによりもの幸福なのだ。

「さっき寝言言っていたぞ」
「え。なんて言ってました?」
「さあな。もごもごしてて上手く聞き取れなかった」

名前は全く覚えていないようだ。朝食を食べたあとは昨日借りたDVDを見ることになった。缶ビール片手にソファーに座った名前はリヴァイの呆れたようなため息から耳を塞いだ。昨夜は飲みそこねたのだ。

「あんまり飲むなよ」
「一缶だけにしますよ」
「一口寄越せ」

リヴァイは名前の手から開いていないビールを取り上げ、開けた。一口二口飲んだ後名前に返す。名前も一口飲み、映画が始まるのを待った。たっぷり二時間堪能した後、次は何を見ようかとパッケージを眺める。次は宇宙人の侵略から世界を守る映画だ。リヴァイは名字からのメールに返信した。映画のDVDを見ている、と返信すると数分後に思いがけないメールが来た。

『この間のお礼がしたいのですが、今度ご一緒に映画でもどうですか?』

隣に座る名前をちらりと見る。これは浮気にはいるだろう。だが、名字に聞いておきたいこともある。それは名前に関係することだ。迷いながらもリヴァイは返信した。そしてスマートフォンをパーカーのポケットに押し込み名前が差し出してきたDVDをセットした。


■ ■ ■


ランチに行くことになった名字とリヴァイは会社から少し離れたレストランで食事をしていた。三日ほど休みをとっていた名前はまだ本調子ではないようだ。食欲もあまりないようでサラダとスープ、パンしか頼まなかった。

「ちゃんと眠れているのか?」
「クスリを貰ったので以前よりかは眠れるようになってきました」
「そうか…まだあの変な夢か?」
「はい。今まではぼんやり光景を見ているだけだったんですけど、最近夢のなかの皆さんが話しかけてくるんですよね」
「ほう」
「次長も出てきますよ。おい、全然なってない全てやり直せ、って言われました」

名前は笑う。その笑い方も家にいる名前と瓜二つだった。名前と似すぎているせいか後輩女性と食事にいくというのに全く緊張もしなかった。いつも通りである。むしろ仕事中よりもプライベートの感覚に近い。食後のお茶を飲みながら名前の夢の話を聞いていた。

「夢の中なのにやけに感覚がリアルなんですよ。全身にベルトをつけて、ワイヤーとガスで飛ぶ道具があるんですけど、その感覚も朝起きるとリアルで…」
「それじゃあ疲れが取れないわけだ」
「楽しいんですけどそうなんですよね…」

会計を済ませ、連れ立ってオフィスに戻った。名前は自分が出すと言って聞かなかったがリヴァイはそれを許さなかったのだ。宝くじが当たったから奢りたいんですと謎の主張をする名前を鼻であしらい、クレジットで払ってしまう。たかが数千円だ。同時に戻ってきた二人に意味深な視線が飛ぶ。見開いた目でしきりに瞬きを繰り返すエレンはジャンに小突かれてはっと意識を取り戻した。

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