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駅前のジムに名前を連れて行った。ガラス越しの風景に名前は目を輝かせた。午後一時から三時間二千円。リヴァイが二人分の申込書を書き、惚ける名前の肩を叩いた。まずは着替えなければならない。

「そこの更衣室で持ってきた服に着替えてこい」
「了解です」
「靴もな」

午前中に買った運動靴。リヴァイも男性更衣室でTシャツとハーフパンツに着替えた。名前の分のタオルも持って更衣室の前で彼女を待った。ロッカーの使い方を教えていないが大丈夫だろうか。リヴァイが出てきて直ぐに出てきた名前の手にはちゃんとロッカーの鍵が握られていた。

「閉め方はわかったか?」
「ちゃんと確認しました」
「よし」

タンクトップとハーフパンツから伸びる名前の手足は鍛えぬかれていた。きっと腹筋も割れているのだろう。お目当てのランニングマシーンについていくと周囲を見渡してゴム板の上に乗った。手元にあるスイッチを勝手に押そうとするのを止めてリヴァイが調節してやる。止め方とスピード調節だけ教えた。

「リヴァイさん、勝負です」
「あ?」

時速を9キロに設定したリヴァイを名前は挑発する。名前の知っているリヴァイには勝てそうにはないが、こちらのリヴァイはあそこまで鍛えてないように思える。勝てるかもしれない。名前の挑発にリヴァイは乗った。

「負けたらペナルティな」
「言いましたね」

リヴァイも名前の隣の機械に乗り、同じように走りだす。明日の筋肉痛は覚悟しよう。最初は久しぶりの感覚に身体が思うように動かなかったが、いつの間にか慣れた。自分の鼓動と呼吸に集中する。重いと思っていた手足も意識の外に行ってしまえばもうなにも気にならない。無言で走り続ける二人をちらちらと見るジムの客とトレーナー。四時間近く走り続けたところでトレーナーは止めに入るか迷った。休憩を入れていないのだ。お互い限界はとっくに超えている。

リヴァイと名前の間に立ったトレーナーが休憩を挟みませんか?と言った。名前とリヴァイがお互いに視線を交わす。舌打ちを一つ落としたリヴァイはストップと書かれたボタンを押した。名前はぴょんと跳ねて機械から降りる。止め方がわからないのだろう。

「…赤いボタンだ」
「はー、い」

足を止めると一気に疲労が押し寄せてきた。かけてあったタオルを名前に投げる。首周りと顔を拭いた名前はげっそりとした顔をしていた。自販機で水を買ったリヴァイは二本のうち一本を名前に投げた。受け取った名前はキャップをねじ上げて勢い良く水を飲み干す。

「リヴァイさんをなめてました」
「俺も鍛えているからな」
「くぅ」

隅にある椅子に腰掛けてしばしの休憩をする。昨夜インターネットでジムの様子と器具の使い方を教えたがまだ身近には感じられないのだろう。名前は興味深そうに筋トレをする人を眺めていた。

「腰回りを鍛えたいんですけど」
「腹筋ならそれだろ」
「?」

リヴァイがケーブルマシンを指さした。二つあるうちの一つは若い男性が使っている。それを見てなんとなくやり方を理解したらしい名前は早速挑戦してみた。マシンから伸びるロープを両腕で掴み、腕と腕の間に頭を入れる。そしてそのまま上半身を丸めていき、戻す。単純作業だが、飽きないのだろう。潔癖の気があるリヴァイには、誰がつかったのかもわからないマシンに触れる気はおきない。名前が視界に入る位置で見守ることにした。

「お疲れ様です。ここは初めてですか?」
「学生の頃は通っていたけど、最近は全く」
「そうだったんですか。見かけないお顔だな、と思いまして」

休憩するリヴァイに女性インストラクターが話しかけてきた。おそらく会員にならないか?という勧誘だろう。リヴァイの読みはあたり、彼女は会員登録を勧めてきた。リヴァイはそれを適当にあしらう。リヴァイ自身はジム通いするつもりはそこまでないのだ。ケーブルマシンから離れ、ペッグデックに挑戦する名前を眺めながらリヴァイは顔をゆるめた。楽しそうだ。

「生憎仕事が忙しくて次にいつ来れるかわからないんだ」
「そうですか…またいらしてくださいね」
「ああ」

ペッグデックをしている名前と目があった。リヴァイは軽く手を振る。満足するまで胸筋を鍛えた彼女はリヴァイの隣に座った。しっとりと汗をかいた名前の肌はつやつやと光る。喉が乾きましたという名前はリヴァイの飲みかけの水を欲しがった。

「別に構わないが、全部飲めよ」
「はーい」
「…お腹がすきました」
「そろそろ帰るか」

初めと比べて随分わがままになったな、とリヴァイは思う。わがままになったというか、甘えるようになった。着替え、会計を済ませたリヴァイは夕食を悩んだ。たまには外食でもいいだろう。名前に外で食べるか?と聞くと何の迷いもなく頷いた。

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