リヴァイは名前にお小遣い制と言い、何かするたびに少々のお金をあげていた。たとえば、洗濯、掃除、炊事。マッサージのお礼にと小遣いを渡そうとしたリヴァイだったが、これは好意だから、と断られた。一回三百円程度の、本当にはした金だったが、名前はとても喜んだ。リヴァイと買い物に行った時、好きなモノをこのお金で買える、と。
「リヴァイさん。私、これ買いたいです」
「なんだ」
「これです」
名前が指を指したのはテレビ。宝くじのCMに惹かれたのだろう。一攫千金とばかりに唄うCMにリヴァイは白い目を向けた。当たるわけがない。
「名前よ。お前、暇なら宝くじに当たる確率でも計算してみろ」
「はーい…」
「説明はしてやる」
ルーズリーフとボールペンを名前に渡す。そう難しい問題ではない。今CMでやっていた宝くじは100000番から199,999番までの10万枚を一組とし、それが100組用意されている。その1000万枚を1ユニットとして、今回は68ユニットが販売される。一等は一つのユニットに1本しかない。
「当たる確率は何パーセントだ?」
「0.00001パーセント…えー」
「100万以上があたるのは7200本位らしい」
「0.0010パーセント…」
項垂れた名前の頭を丸めた新聞紙で小突いた。競馬やパチンコの方がまだ期待値が高いと聞いたことがある。それでも未練がましい目を向ける名前に買うのは自由だ、とリヴァイは言った。
「じゃあ、一回だけチャレンジしてもいいですか?自分のお金でやりますから」
「好きにしろ」
以前、働きたいと言っていたし、やはり養ってもらっている負い目があるのだろう。リヴァイは名前の好きにさせることにした。次の日、仕事から返ってきたリヴァイは家の中に上がること無く、玄関で名前を待った。宝くじを一緒に買いに行く約束をしたのだ。
「今月末当選発表らしいな」
「結果がでるまでわくわくですね」
「…そうだな」
名前はリヴァイが渡した貯金箱を大事そうに抱えてやってきた。彼女は財布を持っていないため、必然的にそうなってしまう。ひったくりに合わないようにとぎっしり抱き込む名前に財布を用意しようと思った。
「本当にジャンボでいいのか?他にもいろんな種類があるし、当たる確率は本当に低いぞ」
「いいんです!」
「そうか」
駅構内にある宝くじ売り場についた名前はいそいそと貯金箱の蓋を開けた。化粧ッ気のないせいで幼く見える名前に店員は微笑む。学生がお小遣いで宝くじを買おうとしているように見えるのだろう。
「えっと、連番を10枚とバラを10枚買います」
「6000円だよ。まいどあり」
名前が真剣に組と番号を選んでいる。リヴァイは小遣いを全部くじにつぎ込んだ名前に呆れるしか無かった。なんとまあ景気のいいことか。からになった貯金箱には小銭の代わりに紙切れが入っている。満足気な名前。
「全部つぎ込んだのか」
「はい」
結果がでるまであと十日ほどある。それまで彼女が楽しめるならそれでいいだろう。家に戻り、夕飯の支度を手伝う名前はカレンダーに小さな丸を付けた。
「もし大金が当たったらリヴァイさんなら、何をします?」
「生憎金には困ってないからな。そう言われてもなかなか思いつかないもんだ」
「うーん」
「お前はなにがしたいんだ?」
「毎日ステーキが食べたいです!」
「…飽きるぞ」
「飽きるまで食べたいんです」
そのぐらいなら叶えてやれる、と思ったが、口には出さなかった。馬鈴薯の皮を向き、たまねぎを切る彼女が作るのはジャーマンポテト。リヴァイが作っているのはシチューだ。狭いキッチンに二人で並ぶのは、もう慣れた。
「お前の手に余るほどの大金が当たったら引っ越すか」
「引っ越しですか?」
「この家に二人で暮らすのは狭いと思わないか?現にお前はいまリビングで寝起きをしている」
「狭いとは思いませんけれど…でもこの場所から離れたら帰れなくなるかもって思うとあまり気が乗りません」
「そうだな」
リヴァイの住むマンションは1LDKだ。一人暮らしにはちょうどいいが、二人では少し狭い。名前にプライバシーの保てる部屋を一部屋渡してやりたかった。だが、今のところ引っ越す予定はないし、仮に宝くじが当たったとしても名前の金だ。どう使おうと名前の自由である。一口サイズに切った馬鈴薯を電子レンジに入れ、温める。あとは炒めるだけだ。
「できました」
「運んでくれ」
ジャーマンポテトを作り終えた名前が大皿に盛り、食卓へと運ぶ。鶏肉がごろごろ入ったホワイトシチューを名前の前に起き、スプーンを渡す。洗い物を終わらせたのち、名前に昔使っていた財布を渡した。黒いシンプルな長財布だ。とりあえずはこれを使えと言うと名前は早速宝くじを財布にしまい込み、満足気な顔をした。