06

 
二人並んでテレビを見ることが今や習慣になっていた。名前もリヴァイのことを兵長、と呼ばなくなってきている。今は主に、リヴァイさんだ。有給を使って彼女の洋服を買いに行ったりと外を連れ回してみたものの、きょろきょろと落ち着かない名前を見る限り、まだ早かった気がする。

「私働きたいです」
「あ?」
「働かざるもの食うべからず!って言うじゃないですか。そろそろ慣れた気もするので」
「無理だろ」
「えっ」
「お前には身分を保証するものがない。つまり、どこも雇わない」

ショックを受けたのか名前は唸った。テレビでやっているドラマはフリーターが探偵と一緒に事件を解決していくドラマ。アルバイトという概念を知った名前が早速提案してきたのだと分かれば、リヴァイは隣のこの女が馬鹿に可愛く見えた。

「家にいるのは退屈か?」
「そういうわけではないんですけれども、リヴァイさんにお世話になりっぱなしなので」
「掃除をしてくれるだけで助かっている」
「でも掃除だけじゃあ」
「洗濯もできるようになっただろう。俺の負担は確実に減っている」

名前が暇な時、というか、家にいる間ずっと掃除をしているおかげでリヴァイの家は文字通りチリひとつ落ちていなかった。ガラスも鏡も完璧に磨かれている。家の中だけではなくベランダの床と手摺まで掃除しているのを知って呆れた。機械の使い方も随分慣れてきている。洗濯機はもう完璧に仕える。電子レンジはあとすこしだ。

「お前が来てまだ二週間も経っていない。そう焦るな」
「はい…あ、肩でもお揉みしましょう!」

名前の突拍子もない発言にリヴァイは目を瞬かせた。彼女は胸の前で両掌を見せ、指を曲げて肩もみの仕草をする。

「大丈夫です!兵長にもよくやっていました」

自分の体を触らせるのは抵抗があったが、彼女なりのお礼の仕方だとしたら無為に拒めない。仕方なく頷いたリヴァイは名前に背を向けた。失礼します、と声がかかり、両肩に彼女の手が乗った。むずっとする。

「おお…凝ってますね」
「長時間パソコンに向かっていれば、凝り固まる」
「痛かったら言ってくださいね」

鍛えているせいなのか名前のちからは大分強かった。痛気持ちいい感覚が続く。肩の筋肉を解していたと思ったら今度は肩甲骨の辺りを押し始める。肩甲骨の間から、背骨に沿うように指が登ってくる。確かに上手い。首を軽く回せばぱきぱきっと乾いた音がした。

「わっ、お疲れ様です…」

名前が首の筋肉に手を伸ばす。そういえば巨人の弱点は項だと言っていたなとどうでもいいことを思い出した。首と頭の境い目を押される。目を閉じて堪能するリヴァイに名前は嬉しそうに手を動かした。足のマッサージもしていたが、このリヴァイさんにはどうしよう。横になってくださいと言えなかった名前は背中だけでとどめた。

「随分楽になった」
「兵士長に鍛えられましたから」
「そうか」

部下にマッサージさせる上官はどうなのだろうか。ここならば確実にセクハラになるだろう。もしかしたら名前の言う兵士長と彼女は深い中であったのではないか、と疑ってしまう。名前曰く、リヴァイと兵士長は性格もそっくりだそうだから。神経質なところを思えば、他人にべたべたと体を触らせるわけがない。疑問を心のなかに押しとどめてリヴァイは歯を磨くために洗面所に向かった。名前には布団の準備をさせる。入れ違いで名前も歯を磨くために洗面所に入った。


■ ■ ■


オフィスでコーヒーを飲むリヴァイは部下の名前が持ってきた書類のチェックをした。営業の記録だ。確認のサインをし、手渡す。ホッとしたような表情についリヴァイの顔も和んだ。家にいる名前と会社にいる名前は違うとわかっている。だが、ふとした時の仕草が似ているのだ。

「次長?どうかしました?」
「いや、なんでもない」
「……?そうですか。キルシュタインと営業行ってきます」

名前がジャンを連れて営業周りにいってしまった。外資系医薬製品会社という特質もあって病院周りが多い。名前と一緒に営業へ行くジャンを睨みつけるエレンを見つけ、ため息をついた。エレンは一昨日、自損事故を起こしたせいで営業へ行けないのだ。この時間帯だとジャント名前は外で昼食を取ることになるだろう。必然的に一緒に。それが許せないらしい。

「でも付き合ってないんでしょ」
「ま、まあ…」

エルヴィンに付き合って社員食堂でご飯を食べていた時、たまたま近くの席だったエレンたちの会話が聞こえてきた。エレンと、ミカサとアルミンだ。ジャンに妬くエレンをアルミンがなだめている。

「名前さんって実は料理とか下手そうで萌える」
「気持ち悪いよエレン…」
「実は不器用なんだよあの人」
「はいはい」
「ちょっと抜けているし…そこが可愛いんだけど」

でれでれと名前の話をするエレンの口にミカサがたまごやきを突っ込んだ。なにするんだよ、と言いながらもモグモグと咀嚼する。リヴァイとエルヴィンが背中合わせにいるとは毛ほども思っていないのだろう。その後もエレンの愚痴かつ惚気が延々と続いた。それを聞きながら謎の優越感に浸る自分がいて、これはこれで気持ち悪いと思った。

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