01

番外編
 
毎週水曜日は家庭教師としてリヴァイが名前の家を訪問していた。18時から2時間勉強を見て、その後名前の家族と一緒に夕飯を摂る。今日の夕飯はオムライスだと言われたリヴァイが二階にある名前の部屋をノックすると名前は少し待つように言ってから扉を開けた。

「……随分散らかっているようだが」
「洋服迷ってたんです。後でちゃんと片付けますから」
「そのワンピース見たことないな」
「先週買ってもらったんです」

ベッドの上に名前がお気に入りの紺のVネックワンピースがあり、その隣に見た覚えのない春らしいフェミニンな印象のワンピースが広げられている。どちらも可愛らしくもあり大人っぽくもあり、名前に似合うと思った。だが、今週末に遊びに連れて行く約束をしただろうか。

「え?してませんよ?」
「…そうだったな。友達と遊びに行くのか?」
「はい。仲のいい先輩がスイーツショップのチケットを貰ったらしくて、一緒に行こうって誘ってくれたんです」

リヴァイがどこかに連れて行く度、どの服を着よう。どれがいいかな、と尋ねられていたのでてっきり今回もそうかと思ってしまったのだ。椅子に座り、カバンのなかからペンケースを取り出したリヴァイは赤ペンをくるくると回す。

「全問解けたか?」
「応用は自信ないですけどとりあえず解きました」
「よし」

リヴァイは先週出した宿題をチェックする。復習問題はあっている。応用も途中でミスをしてしまっていたが解き方はあっていた。問題の解説が終わった後は学校の復習だ。名前はスクールバッグのなかから英語の教科書と文法の問題集を出した。

「リヴァイさんは、さっきのワンピースどっちがいいと思いますか?」
「どっちも似合うと思うぞ」

他人と遊びに行く洋服など関心がないというようにリヴァイは言う。リヴァイと遊びに行く洋服を決めるときには名前に服を合わせ、アクセサリーまで見繕うというのに。どうせなら新しく買った方を着ようと決めた。名前は一人で頷く。

「もうすぐテストだが大丈夫なのか?」
「はい。その先輩が過去問くれますし」
「そうか。まあ、成績だけは落とさないようにしろよ」
「大丈夫ですよ。その先輩は学年トップなんでちゃんと勉強も見てもらいますから」

テスト一ヶ月前から友人と遊びに行くのを自重する彼女にしては珍しい。名前のスマートフォンの画面が明るくなり、メッセージの受信を告げた。マルコ先輩、と表示された画面にリヴァイの目が釘付けになる。

「おい、もしかして彼氏か」
「えっ?」
「お前、いつ彼氏なんか作ったんだ」

英訳をしていた名前はリヴァイが指すスマートフォンを見て納得がいった。楽しんでもらえるよう頑張るね、と書かれているメッセージを誤解したのだろう。違う違うと手を振るもリヴァイは聞く耳を持たない。

「浮かれて内申落としてもしらねーぞ。第一なぜ俺に言わない」
「浮かれてませんって。それに仮に彼氏ができたとして、なんでリヴァイさんに言わなきゃいけないんですか!」
「お前に相応しい男は俺が決める。阿呆な男に引っかかってお前の人生の一分一秒でも無駄にさせるわけにはいかない」

言い切ったリヴァイに名前は呆れた。心配性も度が越している。もしかしたら親よりも過保護なのではないかと思ってしまう。

「リヴァイさんが認める私に相応しい男性ってどんな人ですか?」
「俺より一つでも劣っている所があれば認めない」
「…………ハードル高いですね。暫く見つかる気がしません」
「だからこいつはダメだ。別れろ」
「まだ付き合ってませんってば!」
「まだ、ってことはお前、付き合うつもりなのか」
「言葉のあやですよ。ほら、解けましたから確認してください」

リヴァイは素早く英文に目を通していった。すると名前の部屋の扉がノックされる。母親がお茶とお茶菓子を持ってきたのだ。中の会話が聞こえていたのか笑いながら部屋に入ってくる。

「ありがとうございます」
「いえいえ。よろしくお願いしますよ」

シナモンが薫るミルクティーを置いて母親は出て行った。リヴァイが丸付けをしている間、来たメッセージに返信しようとした名前をリヴァイは素早く止めた。

「勉強中に携帯は見過ごせねえな。没収だ」
「けち。丸付けしてるときくらいいいじゃないですか」
「いいから単語でも覚えてろ」

名前のスマートフォンはリヴァイの胸ポケットに仕舞われる。結局、勉強の時間が終わるまで携帯は返してもらえなかった。

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