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ハンジと男の腕を引っ張り、車へと連れて行った。胞子の入ったショルダーバッグを奪い取った名前はそれを質として名前と共に来てくれるようお願いした。リヴァイにあってほしいと頼む。ハンジは昨日あった刑事の名前を出してきた名前に驚くばかりだった。

「警察は遠慮したいんだがなあ」
「じゃあ車の中で待っててください。先生を人質として連れて行きます」
「……女の子って怖いねえ」

運転席から降りたハンジはキーを抜く。彼がテロリストの一員だったのは事実だったので、念のためだ。名字と表札のでている一軒家の隣の小さな一軒家のインターフォンを名前は鳴らした。連打である。この時間帯にそれはまずいのではないかとハンジは思ったが、今の彼女に何を言っても無駄だともう十分分かっているので好きにさせた。案の定怒ったような勢いでドアが開く。名前とハンジを見たリヴァイは珍しく驚きを露わにした。

「お前は昨日の……名前?」
「リヴァイさん」

リヴァイはさらに驚いた。名前がぼろぼろと泣いているのだ。泣き顔なんて小学生以来見ていない。泣き声をこらえるように唇をぎゅっと結び、肩を震わせる。大事そうに抱えたショルダーバッグを不審に思った。

「上がれ」

名前は頷き、ハンジの手を掴んで上がった。この家はリヴァイの両親が外国から帰宅した時用に使用するつもりで買っていたので、狭くはない。結局、高校生のときから今まで一度も引っ越すことはなかった。リヴァイはリビングのソファーに名前を座らせて落ち着かせる。その様子を少し離れた場所からハンジは見ていた。

「ごめんなさい。私からは説明できないっていうか、私もよく理解していないっていうか。信じられないっていうか」

リヴァイに説明をもとめられたがハンジには答えられない。目を勢い良く擦った名前はリヴァイの腕をぎゅっと掴んだ。

「ウォール教のテロは明日です」
「は」

マヌケな声が出た。どうしてこいつがウォール教の、それもテロについて知っているのか。まさかとハンジを睨むが、違うと頭を振られる。名前はショルダーバッグを差し出して中身を説明した。

「助けて、リヴァイさん…」
「…信じよう」

男のことも洗いざらい話してしまった名前にハンジはちょっとまずいことになったかなと思ったが、いざとなったら外の男を逃がせばいい。無条件で彼女の意見を信じたリヴァイを少し以外に思った。いくら怪しげなものがあるとはいえ、子供の妄想の一言で片付けられるものをこうも鵜呑みにするとは。スマートフォンで電話をかけるリヴァイの口からは緊急、至急と繰り返される。シガンシナだ、と言うリヴァイはかかっていたスーツを手にとった。

「ねえ名字。どうしてそんなに詳しいの?教会のスパイなの?」
「いえ……」
「じゃあ、刑事さんから聞いたの?」
「……」

目の周りが熱い。リヴァイは着替えに別室に行ってしまった。ハンジにならいいだろうか、と名前は学校にプリントを取りに行ったときのことから話した。おそらく、階段から落ちた時に鏡の中に入ったのだろう。ばかみたいな話だ。だが、リヴァイの家にある鏡に名前は対称に写っている。

「あ?この時間に家宅捜索なんてできるわけねーだろ」
「だからこの時間じゃ礼状はとれない…現行犯だよ」
「でっちあげは得意だろ。どうせ緊急事態なんだ。いつ着く?」

学校で生き残った先輩やハンジに会ったこと、学校から病院へ移動したことまで話した時、スーツを着たリヴァイが戻ってきた。肩と耳の間に器用にスマートフォンを挟んで会話している。電話が終わったのか、リヴァイはポケットの中にスマートフォンを滑りこませた。

「内密者からの通告があった、という形で踏み込むこととなった。証拠品は預かっていいか?」
「はい」
「お前は家で大人しくしていろ。先生の方は一緒に来てもらう」

ハンジも大人しく頷いた。名前の話を信じたわけではない。鏡の中にはいるなど現実的ではない。化学で証明できない。だが、名前はテロのことを知っていて、男の持つ、ハンジでさえ知らなかったものも知っていた。彼女が語ったことが嘘であれ本当であれ、頭の片隅には置いておくべきことだ。ハンジがリヴァイと共に車の様子を見に行った時、男はとくに動揺も見せなかった。

「はいかいいえで答えろ」
「はいはい」
「…お前はウォール教テロ計画に関与する人間だな」
「はい」
「テロ実行日は明日だな」
「はい」
「よし」 

ICレコーダーで録音をしたリヴァイはこれで踏み込むきっかけができたと満足した。ミケ達が到着するまであと三十分はかかる。名前が自宅に入ったことを見届け、リヴァイはハンジの車で待機することにした。監視も兼ねてだ。

「あのお嬢ちゃんはエスパーか?」
「さあな」
「ハンジ、お前一体どういった教育をしてんだ」
「いつもは大人しくていい子なんだけどねえ」
「…事情聴取でアイツのことは黙ってやってくれ」

リヴァイの頼みにハンジと男は沈黙した。名前抜きでは語れぬであろうことだ。それを抜きにとは無理を言う。

「簡単なことだ。匿名でのタレコミ、ってことにしてくれればいい」
「なるほどね」

匿名でのタレコミの元を調べたら、なんと内部告白だった、と。証拠として武器の一部分を見せられた。そして実行は明日だという。そうなったら深夜の令状なしの突入も仕方ない。リヴァイの組み立てたストーリーを理解した男は深い溜息を吐いた。罰は受けるだろうが、得たものもある。

「巻き込んで悪かったなハンジ」
「いいよ。それよりその胞子に興味がでてきた」
「おう。好きなだけ研究してくれ」

あの理科室で、男はハンジに振られていた。あの抱擁は、友人としての抱擁だ。テロを密告することになっても、ハンジだけは助けたかった。それが、まさか女子高生によってここまでかき回されるとは、とため息を吐いた。結局研究の成果は警察の手の中だ。自分の手に返ってくる可能性は低かった。前のリヴァイに気づかれないようハンジにUSBをそっと手渡した。

翌朝、シガンシナにある教会から爆発物が見つかり、テロ未遂として司教が逮捕されたことにより、全国のウォール教に捜索の手が入った。テロの危機は去った。名前はリヴァイからの今日の家庭教師には行けそうにもないと書かれたメールにほっと安堵した。母親がサインをした進路表。第一希望は四年制大学理系。リヴァイのメールに返信した名前は通学カバンを持って家を出た。

END

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