21

  
アルミンから送られた合図を確認した名前はフェンスの前にせっせとペットボトルを積み上げていた。フェンスの向こう側にも投げ入れる。拾ったヘルメットを被った名前の耳が爆音を拾う。建物の隙間から倒壊するビルが見えた。エレンとミカサは無事にその役目を終えたらしい。名前は走ってフェンスから距離を取り、ジャンが待機しているはずのベーカリーショップに入る。

「先輩。設置終わりました」
「ああ、こっちもだ…お前いいもん拾ったな」
「もう一個ありますよ」

名前がジャンにヘルメットを渡すと同時に地響きを伴うドーンという破裂音が複数聞こえた。街の中心よりから聞こえたということはジャンが仕掛けたほうだ。残りのドライアイスをペットボトルに詰め、時間を図る。爆発までおよそ五分。タイミングよく投げなければ意味が無いのは利便性に欠けるが仕方ない。

「私が仕掛けた方もあと一分で爆発するはずです」
「問題はアニだな」
「……」

店から上半身だけだしたジャンが先ほど作ったドライアイス爆弾を屍に向かって投げ、店の中に逃げ込む。ドーンともパーンとも取れる音が鳴った。そしてフェンスの方からも爆発音がした。店の外にパラパラと何かの破片が降ってくる。

「リヴァイさん…大丈夫でしょうか」
「大丈夫じゃなきゃ困るんだよ。今の音、アニの方もちゃんと爆発したらしいな」

クラクションが聞こえた。名前の顔が途端に輝く。合図だ。ジャンが名前の手首を掴んで店から飛び出す。視界の端には屍がいたが構うものか。フェンスに向かって走る。脇道から飛び出してきたジープがフェンスに突っ込んだ。閃光が二人の目を刺激する。だが足を止めるわけにはいかない。鈍りそうになる足を必死に動かした。

「先輩!上!」
「なっ、くそっ」

名前の声にジャンは上を見た。屋根の上に屍。まさかとは思ったが、そのまさかだった。飛び降りてくる屍にジャンは咄嗟に足を止める。引いていた手が外れた名前は瓦礫に体をぶつけた。その目の前にべちゃっという水音とともに落ちてきたのは屍。四階から落ちた衝撃で頭も潰れたらしい。死んでいた。名前の顔を守るガラスに屍の体液が飛び散る。汚れたヘルメットを脱ぎ捨てた。

「立て!」

ジャンはすでに名前を見ていなかった。見ているのはジープ。アクセルを全開に踏み切ったジープはフェンスの一部分をなぎ倒して道を開いていた。走るジャンを追って、踏み切る。勢い良く倒れたフェンスを飛び越えた。走り幅跳びの要領だ。スカートが捲れ上がるのも気にしてられない。名前はそのまま走った。ジープはフェンスを押し倒し、スピードを緩めること無くその先のビルに激突したのだ。

「リヴァイさん!!!」
「おい名前!先にやることがあるだろう!」

ブレーカーを落とすのが先だというジャンの怒鳴り声を振りきって名前はジープの運転席に駆け寄った。運転席のドアを引くが開かない。中のリヴァイは意識がないのか、ハンドルにもたれ掛かるようにして動かなかった。

「リヴァイさん!リヴァイさん!!」

割れている窓ガラスに手を突っ込み、ロックを解除する。ようやく開いたドアで名前は喉をつまらせた。ビルに衝突した衝撃で車体がひしゃげたのだろう。リヴァイの体は運転席と車体の間に挟まれている状態だった。隙間がない。ガラスで切ったのかリヴァイの顔から出血があり、上半身からも血液が流れ出していた。

「アッカーマン先輩!助けて!」

走ってきたミカサに名前はすがりつく。リヴァイと車の様子を見て理解したミカサは運転席と車体の間に体をねじ込んだ。そしてダッシュボードに足を置き、足と背に力を入れて幅を広げようとした。運転席ががくっと音を立てて下がる。ダッシュボードにもヒビが入る。かろうじてできた隙間から腕を通し、リヴァイを外に引きずりだした。

「警報がなっている。早く逃げよう」

リヴァイの名前を呼び続ける名前をミカサは悲壮な顔で見つめる。リヴァイが僅かに呻いた。それを確認したミカサが警報を指摘する。名前はミカサに言われて初めて警報がなっていることに気がついた。ブレーカーを落としたらしいエレンとジャンが意識のないリヴァイを抱え、走る。後を追う名前は、いつもは賑やかな繁華街に銃声が響くのを聞いた。同時に足がもつれる。倒れこんだ名前に皆が足を止めた。

「名前。ごめんなさい」
「先輩……」

太ももがどくどくと鼓動する。まるで大腿部に心臓がもう一つできたようだ。倒れこんだ名前の頭に銃口を突きつけるのはアニ。裏切られる可能性は予想していたが、予想していたからといって何ができるわけでもなく、名前はひたすらに自分に向けられている凶器を見るしかできなかった。傷口が熱い。アニの指が動いた。

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