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リヴァイは、公安警察官の一員としてはウォール教を監視していた。ウォール教は七年前から公安調査庁の指定団体となった。其れが最近不穏な動きを見せているという。その日はミケとコーヒーをすすりながら今後の方針を計画していた。

「脅迫入信でもでっちあげてガサ入れしちまおうか」
「入れるとしたら、本部と…お前んとこの街か」
「ああ。意外と気が付かねェもんだよな」

ウォール教の教会が自宅から数キロほどのところにあったとは。過激カルト集団ではないものの、少し心配だった。あの近くには学校がある。そこに通う隣人の名前を思ってリヴァイは憂鬱になった。幸い彼女は宗教に興味はないらしい。

「エルヴィンに現状を報告して許可をもらおう。妙なことになる前に徹底的に洗う」
「承知した」

ウォール教が前科者を集めているという情報とどうやら独自開発した細菌兵器が眠っているらしいというタレコミを受けて科は騒然としていた。情報提供は匿名で行われたが、大体の見当はミケによってつけられている。その情報提供者がシガンシナ町にいるようなので、シガンシナ町の教会にも捜査の手を伸ばすことにしたのだ。エルヴィンに指示を仰げば、来週の頭に決行だという。

「テロでも企む気か?」
「可能性は高いな。目的はなんだ?」
「さあ…?」

情報提供者を割り出し、ミケとその相手に会いに行っていた。その相手が、ハンジだ。彼女の勤め先を見てリヴァイが唸った。名前が通っている高校の非常勤教諭。そういえばプリントでこの名前を見た。名前とたまにいく全国チェーンの喫茶店に座り、ハンジは目の前の二人に困った顔を向けた。

「おかっしいなあ。ばれないと思ったのに」
「残念だったな。もう少し話が聞きたくなったもんで」
「メールで送ったとおりだよ。あの教会の下には厄介なものがある」
「どうしてそれが爆弾だとわかった?」
「親切な馬鹿が教えてくれた。本当に馬鹿だよね…」

ハンジは紅茶に息をかけて冷ます。彼らが素直にウォール教を調べて不穏分子を潰してくれればいい。旧友の顔が浮かんだが、それを振り払った。彼のためなのだ。

「その教えてくれた馬鹿ってのの名前は教えてもらえるか?」
「それは勘弁してほしいなあ…」

聞き出せない、と諦めたのか、ハンジの目の前の小柄な男は黙って紅茶を飲んだ。しかしこの二人、妙な凸凹コンビである。片やハンジより低い背。片やハンジより大分大きな背。二人の身長差は二十センチほどだろうか。小さいほうが上司らしい。

「またなにかあったら教えてくれ」
「はいはーい」

ケーキセットを平らげた大男を連れてリヴァイと名乗った彼は去った。ハンジはこれで安心していたのだ。だから、『旧友』であり『馬鹿』でもある男からの連絡も無視していた。それが、木曜日。その日の夜に名前と学校で鉢合わせた。変な生物を見た、と言われて旧友と結び付けられなかったのはハンジのミスだ。そして、金曜日。ハンジが恐れていた最悪の事態となった。

「ハンジさん。これで大丈夫ですか?」
「ああ!これで回線をショートさせられる。あとはよじ登ってしまえばいい」

サシャが嬉しそうな声に、ハンジは思考を中断し、フェンスを見上げた。ハンジが組み立てたよくわからないものをクリスタが慎重にフェンスのそばに置く。電気柵は、電牧器からプラス端子とマイナス端子が伸びており、柵に絡まっているのはプラス端子から伸びる電牧線だ。電牧線に動物が触れることで伝導帯となり、地面に埋められたマイナス端子と繋がるアースへ、電牧器へと回路が繋がる。街全体を包む電気柵だ。きっと本電源は別にあるのだろうけど、この部分だけはこれで補われている。

「念のため漏電させておこう。そこらへんの樹の枝をフェンスと地面に接触させて欲しい」
「了解した」

ミケが木を倒す。なんと豪快な。ハンジが呆れながらも感謝した。リヴァイ達は大丈夫だろうか。時間まで待機と言われた高校生たちは息を顰めた。きっとあの男はこの町の外にいる。何が何でも捕まえなければならない。ハンジは空を睨みつけた。


■ ■ ■


「お前が知ってもどうにかなることじゃないからな」
「じゃあ、屍の原因はゾエ先生の知りあい…?」
「かもしれない、ってだけだ。あいつも詳しい話は知らないらしい」

研究資金不足からウォール教と手を組んだハンジの元同僚は、頼みたいことがあると言ってシガンシナの教会を指定した。そこでハンジが見せられたのは何かの胞子。彼はそれがなにであるかは語らなかったが、人類の常識を覆すものとだけ言った。一緒に研究しないかと誘われたが、ハンジは断った。だが彼は彼女を責めなかった。

「ゾエ先生、優秀な科学者だって聞いたこと有ります」
「…そうか」
「でも偉いな、先生。私ならきっと恐怖で流されちゃう」

そしてハンジに、ウォール教はテロを企んでいる。危険だからこの街から出たほうがいいと忠告し、信じないハンジに自分の研究を匂わせた。それを信じたハンジは、秘密にすることを選ばず警察に通報したのだ。そしてリヴァイ達が動き出した。すまないと謝るリヴァイに名前は首を振った。どうしようもなかったことだ。別に責める気は起きなかった。責めるべきはウォール教だ。

「屍の本当の原因を突き止めるなり、対策を打つなりしないうちに、ウォール教に手をだすわけにはいかない」
「……」
「俺達は必ず見つけ出す。それまで辛いだろうが、待っていてくれ」

名前には疑問があった。アニのことだ。彼女もウォール教の信徒なのだろうか。それに関してリヴァイは確かなことを言えなかった。アニが信徒だという確たる証拠はないが、ハンジの旧友が支援していた孤児院出身だから、とテロに関係していると疑った。その孤児院では強制ではないがウォール教を推奨しているらしい。リヴァイはエンジンをかけ直す。そろそろ時間だ。名前を送り出し、リヴァイはその背中を見送った。

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