19

 
リヴァイがジープをビルのエントランスに入れ、あとはどう屍を防ぐかを考えるだけとなった。屍がでていない時間帯にフェンスに近づくと、人間に掃討される可能性が高い。しかし夜になると屍のせいでフェンスに近づけない。アルミンが提示した策は、建物を倒壊させて道を塞ぐことで屍の侵入を制限する案だった。もともと空爆をうけている建物ばかりだ。

「屍がここに来るまでに通れる道は大通り二つと小道が三つだ。大通りに面しているビルを手榴弾で倒壊させて道を塞ぐ。たぶん、これで手榴弾は底をつくだろう」
「小道から来たのを拳銃で応戦するのか?弾丸の残りは少ないぞ」
「いや、拳銃は使わない。使うのはドライアイス爆弾だ」

アルミンは廃墟となっているコンビニを指さした。コンビニの倉庫にドライアイスが大量にあるらしい。水も、ペットボトルもある。作り方は簡単だ。ペットボトルにドライアイスを入れ、ドライアイスが浸るぐらいの水を入れる。これで足止めになるだろう。爆発まで五分から十分はかかる。

「作戦決行は七時だ。リヴァイさんが車で突っ込む地点がここ。フェンスの繋ぎ目であるこの二箇所にもドライアイス爆弾を仕掛けて倒れやすくする。その役目を名前とアニに頼みたい」
「わかった」
「はい」
「エレンとミカサはビルに手榴弾を投げ込んで欲しい。ジャンと僕は爆弾の生成だ」

頷いた。これが成功すれば外に出られる。膝の上で拳を握る名前をリヴァイは抱き寄せた。アニが呆れたように二人を見る。ミカサもそっとエレンの袖を掴んだ。六時まであと四時間。コンビニから必要な物を持ってき、一部屋に集める。ここからフェンスまではすぐだ。エレンはずっとフェンスの外を眺めていた。

「きっと大丈夫。絶対成功する」
「ミカサ…そうだよな。いや、別に不安ってわけじゃないんだ。ただ、外に出たあとどうすればいいのかわからなくなっただけだ」
「お母さんに会いに行けばいい」
「そうだな。でも、きっと母さん俺が生きてるとは思っていないと思う」
「……」
「そう考えると会いづらい」
「大丈夫。私も一緒に行くから。アルミンもいる。大丈夫」

ミカサがエレンとアルミンの手を取った。その様子をみて名前も父親を思い出した。説明は簡単そうだ。リヴァイさんが助けてくれた。父はそれで十分納得するだろう。

「車の点検に行くが、来るか?」
「行きます」

キーをくるくるとまわしてリヴァイは問いかける。二階建ての民家は歩くたびにギシギシと嫌な音を立てていた。崩壊しそうで怖い。裏口から出て、少し離れた場所にあるジープまで歩く。ガソリンスタンドの看板が遠くに見えた。

「コンビニから持ってきちゃいました」
「あ?」
「えへっ。いちごチョコです」

名前は上機嫌でチョコレートを食べ始めた。そういえば好物だったな、とリヴァイは思い出す。彼女の私室の机の中には常にイチゴ味のチョコレートが入っていた。いつものように太るぞ、と言おうと思ったが、止めた。名前はここ数日で随分痩せてしまった。顔色も良くない。

「満足するまで食べるといい」
「……死なないでくださいね」
「ああ」

ジープの鍵を開け、ガソリンの残量を確認する。後ろのトランクに入っていた荷物も捨てた。心配なのは強度だ。リヴァイはミリオタではないため、このジープにどれだけの耐久性があるかは全くわからない。ジープを裏拳でコンコンと叩くリヴァイに助手席に座っていた名前は心配そうな顔を向けた。運転席に戻ってきたリヴァイがポケットから時計を取り出した。

「着けとけ」
「えっ」
「俺は感電する可能性があるから付けられねェ。預かっとけ」

たしかこれはリヴァイの就職祝いに名前の家族が贈ったものだ。ブランド名が刻まれたその腕時計は重い。リヴァイが名前の腕につけたものの、サイズが合わないのかぶかぶかだった。

「壊すなよ」
「はーい」

エンジンをかけ、ジープを動かす。大通りの手前でジープを止めたリヴァイは名前の頭をがしがしと撫でた。

「無事に外に出られたとしても、ウォール教だけには関わるなよ」
「ウォール教ですか?」
「ああ。絶対にだ」
「…前から思っていたんですけど、リヴァイさん。何を調べてたんですか?」

リヴァイが学校で名前にコートを貸した時、名前はジャケットのポケットに入っていた手帳を見つけてしまったのだ。リヴァイの几帳面な字で書かれたそれは捜査記録とある。罪悪感はあったものの、好奇心は抑えられなかった。そこにあったのはウォール教についてと孤児院について。五年前に何かがあったことは分かっているが、詳しくは書かれていなかった。名前は手帳を見たことを白状する。

「俺はこのテロが起きることを知っていた」
「首謀者も、実行した組織も、分かっていた」

リヴァイの告白に名前は言葉を失った。声にならなかった息が唇の隙間から漏れる。パニックを起こしそうな発言だが、名前は冷静だった。ハンドルを指で叩きながらリヴァイは説明しだす。あぁ、なるほど、と納得がいってしまった名前は俯いて腕時計を弄った。

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