13

 
名前から探るような目を向けられたリヴァイは顔色一つ変えなかった。きっとなにかある。リヴァイは何かを隠している。だが、名前にはそれがなんなのかわからなかった。名前が口を開くのを待つリヴァイだったが、彼女は首を捻るだけなのを見てコーヒーの缶を潰した。その握力に名前は驚く。

「リヴァイさんって公安の警察官だったんですね。私、普通の警察官だと思っていました」
「どっから聞いた」
「ペトラさんとオルオさんから」
「ったくあいつら。機密をなんだと思ってるんだ」

お給料いいんだろうなあ。来年は大学だ。少しでもいい大学に行っていいところに就職しなければ。そんな平凡なことを思い、この現状を思い出して笑った。政府は街の生存者をゼロと発表している。仮に街から出られたとしてもどういう扱いになるのだろうか。その不安は口からこぼれ落ちていた。

「…万が一のことがあったら俺がお前を養ってやろう。貯金は十分ある」
「えー」
「どうせ小さい頃から面倒みてきたんだ。今更放り出せるもんか」
「じゃあ進路希望には結婚って書かなきゃですね」
「書いとけ書いとけ」

あの夜、名前が学校からとってきたものは進路希望の用紙だった。大学進学なのか、就職なのか。大学進学ならば、文系なのか理系なのか。その他の欄は何に使うのかと思っていた。面会室の扉が小さくノックされる。鍵を開けた扉の向こうにいたのはライナーだった。

「作戦会議に参加して欲しいらしいです」
「わかった。いこう」
「名字、お前はもう寝ろ。アニはもう部屋に行った」

ライナーに言われて名前は頷いた。おやすみなさいと、言い、アニの待つ部屋へと向かう。アニはもう布団に入っていた。名前も自分に宛てがわれた布団に入る。消毒液のようなツンとした匂いがした。冷たいシーツを温めるように体を丸める。何も考えないように早く寝ようと務めた。

「……」
「………」
「…………」

寝返りをうち、壁を向く。どうにも目が冴えていて眠れないのだ。布団に潜ったり、布団から頭を出したり。ふと時計を見るともうすぐ日付をまたぐ所だった。二時間近くもぞもぞやっていたようだ。隣の布団からアニの寝息が聞こえなくなっている。もしかしたら起こしてしまったのかもしれない。名前はそっとベッドから降りた。深夜の病棟は恐ろしい。ナースステーションにも人影はなかった。六階から五階に降りる。少し運動すれば眠たくなると思ったのだ。五階のフロアを一周した所で病室の扉が開き、名前は腰をぬかした。

「誰かと思えばお前か」
「あ…?リヴァイさん?」
「ああ。何をしている?」
「眠れなくて…」

部屋から出てきたリヴァイはため息を吐いて名前の手を引いて立ち上がらせた。そのままリヴァイに宛てがわれた個室に入ると、扉は自動で閉まる。ベッドに上がったリヴァイは再び名前の手を引いた。

「どうせ怖い夢でも見そうで眠れないんだろ。添い寝してやる」
「ちょっと神経が高ぶってるだけです!怖くなんてありません」
「じゃあ部屋に戻るか?このままうろうろしてても周りを起こすだけだぞ。お前は部屋で眠れるのか?」
「……」
「来い」

ベッドの上に座ったリヴァイは名前を壁側に押しやった。先ほどまで彼が寝ていた布団は暖かい。名前は大人しく布団に潜り、足を伸ばした。

「作戦会議はどうでした?」
「まあまあだな。街を包囲している奴らがどのくらいいるのか確かめてからじゃないと具体的な案は練られないだろうって結論に至った。テレビは報道規制がかかっているせいで全く使えない。知り合いに情報を集めてもらっているが、いつごろ動けるかはまだわからねェな」
「…まあ、ここは学校より安全そうですから潜伏するにはいいかもしれませんね」
「問題は食料だ」

上を向いていた名前はころりと体勢を変えてリヴァイの方に向き直った。目を閉じているリヴァイに、コレ以上睡眠を邪魔してはいけないと思い、名前は黙って目を閉じた。眠れそうな気がする。リヴァイは目を閉じた名前を薄めで観察していたが、彼女の眉間に皺が寄っているのを見て手を伸ばした。可哀想に。

「リ、リヴァイさん?」
「寝ろ」

小さな頭を掻懐き、自分の胸の上に乗せた。そのまま横を向けば、名前の身体はリヴァイの腕のなかにすっぽりと収まった。背中を撫でると彼女の下着のホックの上に手が通り、不穏な気持ちになる。だが腕のなかの名前が安心しきったように目を閉じるのを見て厄介な劣情をどうにか排除しようと名前の睫毛を眺めることにした。

「くすぐったいです」
「昔はこれでぐっすり眠ったんだけどな」
「いつの話ですか」
「お前が幼稚園児の頃だな。あの頃は小さくて可愛かった」
「やだ。リヴァイさんロリコンですか」

腕に力を込めれば名前は苦しそうに呻いた。リヴァイは喉の奥を鳴らすようにして笑う。自業自得だ。

「馬鹿言え。園児より女子高生の方が好きだ」
「今女子高生と添い寝しているじゃないですか。もっと喜んでください」
「…犯罪だな」

改めてそう言われるとこの年齢差は犯罪だ。まあ罪に咎められるような行為はしていない。それにあれは親告罪だ。万が一のことがあっても名前がリヴァイを訴えるわけない。それにリヴァイ自身が警察だ。世も末ですね、と笑う名前にいい加減寝るように言い、リヴァイも本格的に目を閉じた。

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