10

 
ジープを病院の横に付け、病院内に入った。爆弾の被害にあったのは外来らしい。外の非常階段を使う予定だったが、入院棟のエレベーターが生きていることを確認できたため、其れを使って登ることになった。ふた手に別れて乗る。ドアのまえには武器を構えた男性陣が達、名前達はその影に隠れるように立っていた。最上階まで屍が居た場合に備えての配置だ。チン、と音がして扉が開いた。

「…大丈夫そうだね」
「まだ安心するなよ」

名前はリヴァイの背中にくっつくようにして歩いた。ハンジが明かりをつける。無事、ついた。ハンジは直ぐに明かりを消した。どことなく煙っぽい。窓を開けていく。

「防火扉を確認しに行く。お前も来るか?」

リヴァイに言われて名前は頷いた。扉は外来棟と入院棟の間に一箇所と、階段の二箇所。リヴァイと名前、ハンジとエレンが確認にいくことになった。残りはこの階の探索だ。暗闇のなかリヴァイの後ろに付く名前はかすかな物音にも敏感に反応した。

「さっきはよくやった」
「…上手くできませんでした」
「そんなことはない。門まで襲われずに走り抜けるのは至難の業だった。それをお前は見事成し遂げ、解錠もできた」
「……」
「皆、無事だ」

リヴァイが名前の手を掴んだ。手をつないで歩く。幼い頃、よくこうやって歩いていたことを思い出した。平和だった頃。名前が物心付く前から毎週水曜日と土曜日はリヴァイが名前の家に夕食を食べにきていた。高校生になってからは水曜日に家庭教師もしてくれるようになった。母と父とリヴァイで授業参観に来ていた時もあった。思い出して笑ってしまう。

「どうした?」
「懐かしくて…手なんか久しぶりにつないだ」
「そうか。俺は中学に入ったお前が敬語を使い出して結構ショックだったぞ」

思春期だからしょうが無いと分かっていたものの、ショックはショックだ。同じように余所余所しくされた父親とリヴァイはよく二人でそれを愚痴に飲みに行った。リヴァイも懐かしく思う。

「リヴァイさんだってドライブとかあんまり誘ってくれなくなったじゃないですか」
「忙しかったんだよ」
「ふーん」
「また連れてってやる」

名前は頷いた。廊下の向こうに防火扉が見える。それは閉まっていた。念のため近くで確認する。きちんと閉まっていることを確認してから、連絡を回した。踵を返す。繋がれた手はそのままに見回りにまわった。病室をあけ、中を確認していく。埃っぽい室内にリヴァイの眉間に皺が寄った。ベッドの下を確認。なにもいない。今日は柔らかいベッドで寝れそうだ。

「もう昼の襲撃はないんですよね?」
「たぶんな。生存者は学校のみと判断して今日の攻撃があったんだろう。今日の部隊が全滅してなお人を送ってくるとは考えられない。どうせ街は囲われてて逃げられないしな」
「街への攻撃って世論ではどうなっているんですか?」
「初期のニュースでは実行犯掃討のため街への攻撃を行っているとあった。住民はテロと感染病で全滅、だそうだ。近隣の街は避難させられたらしいから詳しいことは伝わらないだろうな。今は報道規制がかかっている」
「……」

次の病室の扉を開ける。血の匂いを察したリヴァイは名前を止めた。少し待っているように言うと名前は不安げな顔をする。彼女を病室の前に残し、リヴァイは扉を閉めた。大部屋のベッドにはカーテンが敷かれている。そっと開け、中を確認した。そこにはリヴァイの予想通りの光景があった。全六個のベッドのうち、四個は生命装置が外されたことによる死だろう。残り二個の上には血を流す死体が寝ていた。窓側には射殺された死体が転がっている。気分が悪い。感染していないことを確認し、部屋を出た。

「何か書けるものはあるか?」
「あっ、サインペンなら」
「貸してくれ」

名前からサインペンを受け取ったリヴァイは白い扉に大きくバッテンを書いた。サインペンを返し、再び名前の手をとる。そのぬくもりに安堵した。エレンとハンジの方も防火扉は閉まっていたようだ。ほっと息を吐く。通話が切れるのと同時に隣の部屋からジャンとサシャが出てきた。

「なかは空か?」
「いいえ」
「…マークでもつけとけ」

リヴァイが再びペンを持ち、扉に印をつける。サシャが口元を抑えている。ジャンはそんな彼女を休ませようと座るようにいった。だがサシャは首を横にふる。鼻の奥から腐敗臭が消えないのだ。腹の奥からこみ上げる何かを飲み込むようにサシャは深く息を吸った。

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