08

 
全ての兵士が沈黙したのを確認した皆は、生徒会室に集まった。疲れきった顔をして入室する皆々に、何もしていない名前は肩身が狭そうに体を縮こませた。生徒会室に入ってきたリヴァイは、名前が無傷なことを確認し、安堵の息を吐いた。

「病院への移動を提案します」

全員がそろったことを確認し、アルミンは手を上げて提案した。部屋の中にあるホワイトボードには街のおおきな地図が貼られている。赤丸で学校を囲み、青丸で病院を囲んだ。学校と病院には三キロ弱の距離がある。

「移動するとしたら早めに行動しないとまずい。クリスタとユミルが校舎内で不審物を見つけている。日照センサーがあることから考えると、日が沈み、光が遮断されると爆発する仕組みだと思う。爆弾を全部見つけて、学校中の電気をつけるなりしてセンサーに灯りを送り続けるのは手だけど、まあ不可能だよね」
「先生の言うとおりだな。あと三十分もすれば日が沈む。屍が動き出す前に少しでも病院に近づきたい」
「ジープなら外に二台、止まっていました」
「使えるか…?」
「見てみましょう」
「じゃあリヴァイさんとミケさんはジープが使えるか見てきてください。他のみなさんは移動の準備を。十五分後に出発です」
「ジープが使えなかったら自転車を使おう」
「鍵はマイナスドライバーと金槌で壊せる」

名前は非常用バックを人数分もってくるよう頼まれた。職員室にあるという。同じく一階にいくリヴァイとミケの後ろについて階段を降りて行くと、壁のところどころに血のような跡があるのが目に入った。この校舎で人が死んでいる。

「大丈夫か?」
「ちょっと気分が…」
「…こんな状況じゃどうしてやることもできない。悪いな」
「いえ…リヴァイさんにご迷惑をかけてばかりで」

高校生になったとき、両親が海外に赴任することになり、実質的に一人暮らしを始めたリヴァイにあれこれとお節介をやいてくれたのが隣の家に住む名前の家族だ。かれこれ名前との付き合いはもう十四年にもなる。二歳だった少女は十六歳まで成長した。こんなところで彼女を死なせるわけにはいかない。

「もうすぐこの街から出られる。それまで頑張れ」
「はい」

職員室に彼女を送り、リヴァイはジープまで歩いた。鍵は、刺さりっぱなしである。三列七人乗り。ミケの方の車が動くようならば、合計十四人は乗ることができる。だが、校舎内にいる人数は十九人だ。それに荷物も在る。運転席から降りたリヴァイはミケの方を見る。ミケの乗った車からエンジン音をしたのが聞こえた。

「ジープは二台とも動く。だが、車内に乗れるのは詰めても8人づつまでだ」
「了解」

ハンジの声がイヤホンから聞こえた。優先するべきは女と子供。ミケとリヴァイがジープの上に乗るべきだろう。ミケも同じ結論に至ったのか、無線でマシンガンを用意するよう言っていた。校庭を名前がキャリーをおして歩いてくる。非常用バックをジープに積みこむ作業をしながら、名前は校舎を見上げた。あの階段の様子を見てみたかったが、もう出発まで時間がない。

「名前、あなたは私の膝の上」
「えっ」
「このジープ七人乗り。だからあなたは私の膝の上」

ミカサの言葉に名前は目を丸くした。クリスタもユミルの膝の上だと聞かされて顔を赤くしている。アニもサシャの上に座るよう言われて眉をしかめていた。荷物を詰むためにはしょうがないのだ。

「身長的にそれしかない。わがままいわない」
「アッカーマン先輩…」
「あと名前、スカイプグループに招待するから着信に出て欲しい」
「わかりました」

ミカサに言われて名前もクリスタも頷いた。我儘を言っていられる状況ではない。ミカサに言われてスカイプのIDを教え、コンタクトを承諾した。すぐに着信がかかってきた。

「リヴァイとミケは大丈夫そう?」
「ああ。運転はオルオとペトラにしろ。お前にやられてはかなわん」

ハンジが笑う。名前が上を見ると、ジープの上には荷物とリヴァイがいた。リヴァイの肩にはマシンガン。疑問符を浮かべる名前にミカサが「敵がきたときに応戦するため」と説明してくれた。彼らは外で大丈夫なのだろうか。強いのは知っているが、走行中の車の上というのは危険すぎないだろうか。ミカサが名前を車の中に引っ張る。ドアが締まり、ペトラがハンドルを握った。ゆっくり動き出す車。名前はミカサの腕のなかにすっぽりと収まっていた。

「病院についたら、まずは最上階まで非常用階段を使って登る。最上階の安全確認ができたら、一階ずつ降りて行って、防火扉の状況を確認する。いいね?」
「扉が閉まってなかったら?」
「屍がいないと判断できた階から閉めていく」

アルミンの声に頷いた。どうか防火扉が閉まっていますように。廃墟とかした街を眺める皆の顔は曇っていた。元は飼い犬であった犬がうろついている。クラクションを鳴らして屍が来たら困るので、撥ねるような勢いで脅し、道を進んでいった。

「…困ったわね。道が塞がれているわ」
「迂回できる?」
「やってみます」

倒壊した家屋が道を塞いでいた。オルオとペトラは迂回ルートを確認し、車はゆっくりと道を引き返していった。窓の外はもう暗い。暗闇のなかで動く白い物体に名前は唇を噛んだ。ミカサにしがみつく。震える彼女をミカサはしっかりと抱きよせた。

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