07


カメラが正しく映像を流そうとも、警備室が制圧されればこっちの目は無くなる。一気に不利になる。アルミンは名前から少し離れ、スカイプのミュートを解除した。マイク付きイヤホンのマイクに向かって話しだす。

「確認できているのは十人編成の班が3班!今ミケさんとミカサ、ハンジさんとジャンが交戦しています!」
「リヴァイさん、エレンと一緒に警備室の援護に向かってください!」
「もう向かってる。おいエレン、ちんたら走るな」

再び聞こえた爆音に名前が悲鳴を上げた。アルミンは彼女の口を手で塞ぐ。窓の外にガスマスクを付ける兵の姿が見えた。校庭を駆け抜けていくのは三人。アルミンがそれを報告するとクリスタとユミルが様子を見るという。一際おおきな爆音が響く。名前がまたくぐもった悲鳴を上げた。

「アルミン!屋上からも侵入したみたい!」
「…わかった」

銃声に紛れるペトラの声を聞いてアルミンは生きていたかと少し安堵した。だが、新たな情報に警備室に主戦力が集中しすぎたとアルミンは臍を噛んだ。警備室にペトラ、オルオ、リヴァイ、エレン。二階でミカサとミケ、アニ、ベルトルトが一班。同じく二階でハンジ、サシャ、ジャン、コニーが一班を相手にしている。カメラ外の見張りにエルド、グンタ。一階ではクリスタとユミルとが校庭の様子を見ている。

「ライナー、誰か連れて三階以上を頼んでもいいかな」
「了解した。屋上から来てる連中はなんとかしよう」

アルミンは震える名前を揺すった。

「名前。落ち着いて聞いてくれ。屋上からも侵入された。今みんなは二階以下にしかいない。ライナーが援護にくるが、もしかしたら間に合わないかもしれない」
「屋上って…すぐそこじゃないですか!」
「しっ…静かに。上から攻められては挟み撃ちになってみんなが危ない。わかるよね」
「はい…」
「上から来ているのは多くても十人だ。少しでも時間を稼ごう。一旦此処を出る。銃の使い方は大丈夫だよね」
「……」

名前の顔色は真っ青だった。アルミンも名前に撃てるとは思っていない。だが、少しでも心を強くもってほしかった。泣き出しそうになる名前はアルミンに支えられて立ち上がる。

「とりあえず三階に降りる。どこかの教室に隠れて人数の確認をしよう。確認できたらベランダを使って退避、場合によっては足止めをする。いいね」
「はい」

名前の手をひっぱりアルミンは生徒会室を飛び出した。階段の直ぐ側にある場所を選んで正解だった。屋上の扉が頑丈なのか、廊下に人影は見られない。三階に降り、高校二年生の教室に入る。窓を開け、退路を確保する。拳銃を強く握る名前は手の汗を一旦拭った。すぐ近くの階段を降りる足音が聞こえてくる。アルミンが口の前に手を当てた。

「三階南階段についた。異常なしだ」
「いま第一階段で奴らを確認。僕と名前は2Aだ。人数の確認をするよ」
「中央階段に移動する」

校舎には第一階段、中央階段、南階段がある。三階第一階段の直ぐ側の教室のベランダに身を顰めた二人は教室の扉を開け、中を警戒する兵の動きに注意しながら人数を数えた。ベランダを確認される前に移動する。アルミンが名前の腕をひっぱり、ベランダの隅に誘導する。二人は柵を越えた。体育館の天井がすぐ下にあるのだ。足音を立てないように屋根の上を渡り、ベランダからの死角に身を顰めた。息を殺し、兵が去るのを待つ。窓が開けられ、絞められる音がした。

「ライナー、確認できたのは三人だ」
「こっちにも三人きた。まかせろ」

銃声が聞こえなかったということは肉弾戦で挑んだのだろう。柔道部主将は伊達じゃない。どうやらライナーの援護にアニとベルトルトがいるらしい。アルレルト先輩、と名前が小さな声でアルミンを呼んだ。

「みんなで学校から逃げることってできないんですか…」
「できる。けどそれをするのは今じゃない。この状況でバラバラに逃げれば生存率は一気に落ちる」
「そうですか…」
「怖いだろうけど、もう少し頑張って」

イヤホンから、ライナー達が始末し終えたという報告が入った。階段から突き落とすというシンプルな攻撃だが、有効性は高い。装備を剥ぎ取り、近くの教室に隠した。しっかりトドメを刺すこの作業に慣れてしまった。アニは髪を掻きあげて汗を拭う。下の援護に行ったほうがいいだろう。アルミンと名前はその場で待機するようだから問題ない。綺麗な青空は久しぶりに見るというのにまったく最悪の気分だった。

「オルオ、ペトラの手当をしておけ」

警備室を襲う兵士を片付けたリヴァイは、校舎の様子を見てくると言い残してその場を離れた。監視カメラ外でおかしい動きがないか確認していくらしい。状況はこちらが有利だが、何かがひっかかるようだ。リヴァイは片手に手榴弾を持ちながらジープに近づき、ピンを抜いて投げつけた。校舎から少し離れたところにあるもう一台にも投げつける。予想以上の爆音と爆発に、リヴァイは顔を顰めた。ダイナマイトでも積んでいたのだろう。

「学校はもうだめだな。どこかに爆弾でも仕掛けられている可能性が高い」
「時限式かな?きっと夜にどかん、だろうね」
「…明日には移動しましょう」
「アルレルト、場所をしぼっとけ」
「はい」

アルミンが街の地図を取り出した。自家発電機がある施設で、屍の巣になってなさそうなところはどこだ。屍は夜行性だ。昼間はどこかに身を潜めている可能性が高い。そしてその場所はおそらく屋内だろう。学校を捨て、逃げた先が屍の巣という状況は笑えない。

「病院…警察署…」
「大学はどうですか?」
「敷地が広すぎるし、セキュリティが甘すぎるから厳しいね。それにシャワー等が一箇所に固まってない」
「病院と警察署のどちらかですか」
「病院がいいと思う。非常食もありそうだし、ローゼ大学病院は爆弾テロに巻き込まれたはずだから、防火扉が閉められている可能性が高い。防火扉がちゃんと機能しているならば屍は入ってこれないはずだ」
「……いつ移動するんですか?」
「夕方かな。兵が引いて、屍が活動し始めるぎりぎりの時間だ」
「ここからローゼ病院までは歩いて三十分はかかります。その間に屍に囲まれでもしたら…」
「自動車が使えればいいんだけど…最悪自転車がある」

顔を青くした名前はアルミンの制服の袖をぎゅっと掴んだ。本当に大丈夫なのだろうか、とその目は聞いている。確かなことは誰にも言えない。目を伏せたアルミンに名前は泣きたくなった。

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