「お前といると、ほんと楽しい!」





そうやって、無防備に笑うからいけないんだよ。そっと頬に手を添えると、先程からすこし赤みを帯びていた頬がぽぽぽっと熱を発した。歳の割に童顔な円堂の頬は思った以上にぷにぷにで、くるりと丸いふたつの目は水気がありキラキラしている。わたしは今からこの純粋無垢な光を汚すのだ、ああ、ぞくぞくする!罪悪感なんて、あるはずがない。わたしの破壊衝動の対象が、みんなから大人気の円堂守だった、それだけ。


誰にでも破壊衝動はあるものだとおもう。そしてその破壊は、対象がやりがいのあるものであればあるほど、大きな快楽を生む。今回、いやまあ初めてだけど、わたしの対象は十二分にやりがいがある、なんたってあの円堂守。老若男女国内外関係なく自分に惚れさせてしまうカリスマをもった、あのキャプテンなのだ。ぽつりと、名前を呼ばれた。意識が世界に浮上して、にま、と自分が笑うのがわかる。喉元をくすぐるように指をばらばらと動かせば、円堂はくすぐったそうに、なんだか楽しそうにふくふくとわらった。





「こうやられるの、すき?」
「分かんねぇ。でも、きもちい」
「それはすきってことだよ」
「そっか。じゃあオレ、おまえのゆび、すきだ」
「…ゆび、だけ?」
「…へ?」
「まあ、まだ、それでいいけど」





ずい。息が触れ合いそうなところで顔をとめる。ぱちくりと瞬きをくりかえす円堂の顔は目前、どうしようわたしの理性がもたないかもしれない。さすがに鈍感天然な円堂も、この距離はやばいと察したのか、困ったように眉を下げた。その表情がますますわたしを煽るなんてことを知らずに。だからさっそく、円堂の頬をはむりと食べてみる。





「!?なっ」
「…ねえ、円堂」
「、ち、ちかくないか?」
「そう?イヤ?」
「い、いや、っていうか、なんて、いうか、」
「……」
「へんな…キューキューするん、だ」





そう、と小さく返して、また触れるか触れないかの力で、指を円堂の肌に滑らせる。すると、どうだ。さっきはただくすぐったいとわらっただけだったのに、今じゃ、ふるふると目をつむって必死に何かに耐えている。この小さな反応の変化にさえ欲情してしまうのは、わたしがおかしいからなのかしら。まあそんなことどうでもいい。


つぅ、とワイシャツの第二ボタンぎりぎりまで触ってやれば、無意識だろう、腰をひゅっと引いた円堂が可愛すぎて笑ってしまった。くすくす目の前で聞こえることに疑問を持ったらしい円堂は、うっすらと、涙の溜まるふたつの光を覗かせる。背筋を走る支配欲にそっと蓋をして、出来るだけ綺麗な笑みを浮かべ、目を見開いた円堂にぴたりとかぶさった。お互い床に座っているため、かぶさると言ってもそれほど密着度はない。でも確かに、わたしが跨がったことで、円堂はぶるりと揺れた。制服からするのは、人の家の匂いと、なんとも言えぬ男の子の匂い。ああ、どうしよう、思った以上に理性が浅いかもしれない。今すぐここで捩じ伏せてしまえ、と囁く本能から逃げるように、深く、息をはいた。





「ん、っ…」
「…えんどう?」
「、っうん…?」
「どうしたの?すごく、身体、かたいよ」
「だ、って…おまえ、がっ」
「わたしが?」
「……」
「わたしが、なに?」
「…、ぁうッ?」





ちょっと力を入れて噛んだだけで反応するとは、円堂の性感帯って耳なの?血が出るんじゃないかというくらい赤い耳をなだめるように舐めたはずが、噛んだときより高い嬌声が屋上に伝わった。ぞくぞく。はあはあと息を荒くする円堂の、ワイシャツの襟をぐいと引き、あらわになった鎖骨へ顔を埋めてもう一度。わたしの?なにが?どう感じたの?質問の答えの代わりに、縋るような掠れた切ない声で名前をつむがれる。嫌だ、反則だよ、円堂。そんなかわいらしく擦り寄ってきたら、どうにかなってしまいそうじゃないか。きゅっと握られたわたしの制服。その一生懸命な姿を褒めてあげようと、健康的な素肌に吸い付いた。円堂が息を呑む。股下の腰が浮く。どうしようどうしよう、わたしの息まで荒く跳ねてきた。





「い、たっ」
「我慢して」
「も、やめぇ、ッふぁ」
「ならその手、離して」
「ンぁ、やだ…っ」
「!」
「やだ、いやだッ」





押さえ付けられる予想外の力に、成す術もなく、ぴったりと隙間なく彼にくっつかれてしまった。円堂、と呼んでみても、嫌だ嫌だと言われるだけだし、どうしたものかと、だんだん湿ってきたその首に埋まりながら考える。なにが嫌なのか、なにをこんなに欲しているのか、この空回りする渇きは何なのか、きっと円堂自身、初めての感覚で分かっていないだろう。それでいい。にんまり口角が上がった。熱に染まりはじめた円堂の顔を覗く。悩ましく寄った眉が、わけの分からない感覚に動揺していることを示した。切羽詰まった声がわたしを呼ぶ。来る。





「どうしよう、オレ、」
「なぁに?」
「ぞわぞわして、うぁ、や、いやだっ」
「言わなくちゃ分からないよ」
「どうにかなりそうなんだ、オレっ、たすけて、」
「…いいよ、何でもしてあげる。何がお望み?」





欲情なんて知らない感覚をわたしに植え付けられた円堂は、もうわけも分からず思ったことを放っている。もうそろそろかな。泣きそうになってる円堂の首に沿って腕をまわした。わたしの頭をぐしゃりと捕む円堂の本能的な手の大きさにひどく安心する。純粋無垢の瞳から、光がぽろりと転がりおちた。





「おまえがほしい」





待ってました。












(110605/↑)
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/頬に手を添え、キスをした@企画呼吸さまへ提出!