遠距離 | ナノ


遠距離



神奈川と、東京。
遠距離ってほどじゃないけど、中学生からするとやっぱりちょっと遠いと感じる。
交通費が、往復で1000円ちょっとするし、片道一時間はかかる。
俺はそれを考えるたびに早く大人になりたいと思うのだ。

「で、なんで急にそんな話始めたん?」
「だってよー……、もう1か月だぜー?」
「テスト期間なんやからしゃーないやん」
「寂しいもんは寂しい!」
「岳人がそないはっきり言うなんて珍しいやん」

会えない寂しさを紛らわせようと侑士にぐだぐだ絡んでみたけど、やっぱり紛れなくて、むしろ鼻で笑われる始末。
俺がこんなことになってるのも、何もかもあいつのせいだ。
あいつが珍しくまじめな態度でいたから、俺は仕方なく折れてあげたのだ。
どうも、進級の危機とかそういう感じらしい。

「なんでもサラッとこなしそうな仁王にしては意外やね」
「あいつ、結構不器用なんだぜ?」
「へえ、そうなん?」
「そうそう、こないだなんかさ、一緒にソフトクリーム食ってたらあいつ手にベタベタこぼしててさぁ!」
「それは……なんていうか、不器用やなぁ」
「だろー? ……はぁ」

話してる間は楽しいのに、話し終わるとやっぱり寂しくて、ついついため息が出た。
あ、やべ、そろそろ侑士がめんどくさそうな顔してる、これはもう心閉ざしてるかもしんね。

「そんなときはさ、体を動かしてみるのはどう?」
「そーそー、そしたら気分もすっきりするCー!」
「あ……滝! それにジローも!」
「やあ、岳人に忍足。そんなわけで、今からミニゲームするのはどう?」
「部活引退してからはあんま真面目にやってへんしな、いいんやない?」
「忍足がやる気なんて珍Cー! ね、どうどう? 岳人!」

侑士が乗り気なのは本当に珍しいし、二人の気遣いは純粋に嬉しい。
それに、最近勉強尽くめで体を動かしてなかった。

「うん……、サンキュー、やろうぜ!」
「そうこなくっちゃ! じゃあ早く行こう!」

そんなわけで、来たのはちょっと離れたストリートテニス場。
よく行く近場が満員だったため、電車に乗って来たのだ。

「じゃあダブルスでやろうか?」
「いいねー! 滝と組んでみたかったCー!」

そんなこんなで試合を始めたはいいものの。
サーブはネットだしフォルトだし。
スマッシュを叩き込めばホームランするし。
しまいにはムーンサルトで着地失敗して、膝を擦りむいてしまった。
滝が少し休むように気を利かせてくれて、ベンチで休憩することにした。

「はぁ……」

せっかく連れ出してくれたのに、散々な結果で、ため息しか出なかった。
ちょっと会えないだけでこんなことになってるって知られたら、やっぱり呆れるだろうか。

「なんじゃ、ぼろぼろやのう?」
「え……?」

背後から、今一番聞きたくなくて一番聞きたかった声が聞こえた気がした。
振り返るのが怖くて躊躇っていたら、じれたようにもう一度声がかけられた。

「どんな無茶したらこんなぼろぼろになるんじゃ、岳はおっちょこちょいじゃのう」
「まさ、はる……?」
「うん、岳人の彼氏のまーくんじゃ」
「ど、してここに?」
「ちょーっと岳に会いたくなってのう、限界じゃからまーくん来ちゃった」
「でも、なんでここにいるってわかって……」
「うーん、それは愛の力ぜよ」

はぐらかされてるけど、それよりも嬉しくて。
会えると思っていなかった。
もうこのまま、ダメになるんじゃないかと思った。
こいつがいないと、テニスすらまともに出来ないことに気がつかされた。
考えてたら、衝動が押さえきれなくなって、自分から抱きついた。
勢いが強すぎて鼻をぶつけたけど、そんなことも今は気にならない。
会えなかった時間が、珍しく俺を素直にしたみたいで、普段は言えないような言葉がするする出てきた。

「雅治、俺、会いたかった。雅治がいないと、なんにも出来なかった。テニスすらまともに出来なかった。……会いたかった」
「岳……、俺も、岳人に会いたかったぜよ。結局勉強もあんまり手に着かんき、こうして会いに来たんじゃ」

頭を撫でてくれるその大きな手がとても心地良くて、仁王がここにいることを実感させてくれた。
人目も気にせず抱きついているのに、仁王の手はとても優しくて、こいつも同じ気持ちだったのかな、なんて思えた。

「これからはあんまり寂しい思いさせないようにするき、見捨てんといてな?」
「うん……、うん……!」

ホントは、見捨てられるのは俺の方じゃないかとか言いたいことはいろいろあったけど、言葉にならなくてただうなずくことしか出来なかった。
これから先、こんなことは何度もあるんだろうけど、やっぱり寂しくなるし離れられないんだろうな、と思った。



おまけ↓

「ジロー、ありがとね」
「丸井くんに連絡取りたかったのは俺もだC、お安いご用!」
「あの仁王の焦りようったらなかったわ、なかなか見れへんで」
「うわ、忍足悪趣味ー」
「なんでや!?」
「ま、岳人が元気出て良かったC、俺も丸井くんと電話出来たし! 満足!」





140922
というわけで、ジロちゃんが丸井くんに電話して、仁王くんに伝えました。
岳人を寂しがらせるなんて、仁王くんてば←
無駄に長くなってしまったorz