ツボミ | ナノ


ツボミ




「ねぇ、骸」
「なんですか?」
「なんでここにいるの」

ここは、並盛中学校の応接間。
この学校を自分の城のように扱っている雲雀にとって、この部屋は言うなれば玉座の役割を果たしている。
入るものは厳選され、一度王の前に出れば頭を垂れなければならないような錯覚に陥る。
そんな絶対王者の部屋に、侵入者が1人。

「それはもちろん、決まっているじゃありませんか……貴方を口説くためですよ」
「……出てってくんない」
「全く、つれないですね雲雀くんは」

骸はそう言って、溜息を一つ零すと、腰掛けていたソファから立ち上がり、部屋の入口に立ち尽くしている雲雀の元へゆっくりと歩いてきた。
大人しく出ていってくれるのかとも思ったが、骸はそんな性格じゃないことを思い出し、雲雀はトンファーを構えた。

「そんな物騒なもの、仕舞ってくださいよ」

雲雀のその行動を見て、骸はへにょりと眉毛を下げ、とても情けない顔になる。

「何その顔……気持ち悪い」
「……流石に酷いですよ……とにかく、これはしばらく没収です」
「ちょっと、僕のトンファー返し……んっ……!」

骸は、トンファーを取り上げたまま雲雀の手を押さえ込み、そのまま荒々しく口付けた。
そしてそれは、だんだんと深いものに変わっていく。

「……んっ……んむ、……はっ……」

雲雀が酸欠に陥りかけたところで、漸く唇が離された。

「な、にするの……!」
「そんな赤くなった顔で睨まれても、怖くありませんよ?」

クフフ、と独特の笑い声を零した骸は非常に憎たらしかったが、一先ず息を整えるために距離を取る。

「もう、今すぐ出てってよ……!」

先程の口付けにより乱された思考は、まだ纏まる様子もなく。
とりあえず元凶を追い出せば少しは纏まるかと、精一杯の強がりを投げかけた。

「恭弥、僕は君を愛してますよ」
「五月蝿いそれ以上喋るな出てけ」
「強情ですね、恭弥は……まあ、僕は忍耐力はありますからね、ゆっくりと溶かしてあげますよ」

その言葉を最後に、骸は窓から出ていった。
雲雀は赤くなった頬を冷まそうと、水を一気に流し込む。
これは酸欠のせいだと言い聞かせながら。

心に芽生え始めた蕾が、その花を咲かせる日は案外近いのかもしれない。





130523
恋人未満な骸雲
骸の片想いと思いきや…な甘酸っぱい関係
甘めな時はこのくらいの距離感が好きです