スレ違イ | ナノ


スレ違イ



部活が終わり、学校から家へと向かう電車に揺られながら、侑士はぼんやりと今日の出来事を思い返していた。

いつも煩いくらいに側にいた岳人が、今日に限って一度も顔を見せなかった。
理由を聞こうにも部活に遅れてきたため時間が取れず、今日の練習メニューには運が悪いことにダブルスの練習はなく話す機会が見付からなかった。
まあ部活が終わったらでいいだろうというそれは読みが甘かったらしく、岳人は部活が終わるなり急いで部室を出て行ってしまった。
普段どんなに早く支度が終わろうと最後まで残って話していくあの岳人が、だ。
たまたま用事があったにしてはタイミングが良すぎる。
ここのところ、確かに岳人はあまり元気がないように感じた。
もしかしたら、何か自分が避けられるような事をしてしまったのかもしれないが、それが何か一向にわからないため、考えは堂々巡りになってしまっていた。

ふと気付くと、周りは見知らぬ景色になっていた。

「あかん……乗り過ごしてもうたわ」

このまま引き返してもいいのだが、気分転換がしたかった。
とりあえず降りてみて、探険でもしようと辺りを見渡すと、どうやら海があるらしい。

「折角やし、な……」

気分転換にはちょうどいいと思い、海まで行ってみることにした。
たいして歩かないうちに砂浜が見えてきた。と同時に、本来見えるはずのない赤が見えた。
侑士はあの赤を持った人物を一人しか知らなかったし、見間違えるはずもない。

「こないなとこでなにしてん、……岳人」

近寄って後ろから声をかければ、その赤…岳人は、大袈裟に肩を揺らした。

「な、なにって……別に!」
「別になんてことあらへんやろ、なんか気に病んでることがあるんやないんか?」

図星か否か、岳人は俯いて口をつぐんでしまった。
しかし、侑士としても、ここで引いてしまっては何時までも関係が回復しない気がして、絶対に引くわけにはいかなかった。
しばらく無言の睨み合いが続いたが、先に折れたのは岳人だった。

「……別に、悩みがあるとかじゃねぇよ。ただ、その……」
「俺には……言えへん?」
「そうじゃ、なくて……、……あーもうっ!」

どうしたらいいかわからない、というように頭をかいたりしていた岳人だったが、何かを決心したようにいきなり立ち上がると、吠えた。

「侑士がっ、好きになっちまったんだよ!」
「……え?」
「まだ、侑士とダブルス続けたかったから……気持ちの整理つけるまでは離れようと思ってたのに……!」

突然のことに頭は回らず、岳人が言っている言葉を追うのが精一杯だった侑士は、岳人が深呼吸をして座り、顔を背けるまでしっかり固まっていた。

「ちょ、ちょおまち、つまりなんや、岳人は……恋愛感情で、俺が好き……?」
「それ以外になんだっつーんだよ」

一度言ってしまって吹っ切れたのか、岳人はぶすっとした顔で答える。

「なんや……そうやったんか……」
「男相手でキモいとか思ってんだろ? いいよ、明日からもう話し掛けないから」
「何言うてん……はやとちりはよくないで、岳人。俺が岳人をただのダブルスパートナーやと思っとったら、こんなに岳人が気になったりしてへんよ」
「え……それって……!」

岳人は勢いよく振り向くと、言葉の意味を考えながらも期待と不安に満ちた顔をこちらに向けた。

「俺も、岳人が好きや。こんな俺でよければ付きおうてください」
「ゆう……し……! こ、ちらこそ……こんな俺だけど……よろしく、お願いします!」

そう言って、岳人は満面の笑みを浮かべた。
その笑顔は夕陽に照らされてキラキラと輝いていた。

それからと言うもの、あの日はなんだったのかというほど、今まで以上に片時も離れないダブルスが目撃されたとか。





120621
岳人に告白させたくて書きはじめたものの予定から大幅にズレた
書きはじめたのが2月だなんて口が裂けても言えないよね!
さらに雪降らすつもりだったなんてry←