名前で呼ぶのは二人っきりの時だけ。
それは、二人の暗黙の了解だった、はずなのだけれど。
「おい、萩之介」
部活中にも関わらず、跡部がいきなり名前で呼んだ。
付き合っていることを皆に隠しているわけではないが、特別言うこともしていないため、皆不思議がるんじゃないかと思う。
バレて困ることはないが、突然の事に滝は少し動揺し、とりあえず何事もなかったように対応することにした。
「なに? 跡部」
「来年度の予算で相談したいことがある、部活終わったら会議室に来い」
「うん、わかった」
跡部もまるで当たり前のように続けたため、少し疑問に思いながらもスルーすることにしたが、その日の呼び名はすべて名前だった。
幸い、誰かが取り立てて騒ぐようなこともなく、部活が終わった。
跡部との約束通り会議室に行くと、既に跡部が中にいた。
「よう、遅かったな萩之介」
「うん、お待たせ……じゃなくて! なんで今日は名前で呼んでたの?」
「別に、名前で呼んでも構わねぇだろ?」
「それはいいけど……ちょっと、びっくりした」
「久々にお前の驚いた顔が見れて、楽しかったぜ?」
言って、跡部はニヤリと笑った。
「っ……俺は、絶対に皆の前では名前で呼ばないから!」
絶対を強調して言うと、跡部が今度は声を出して笑いはじめた。
「ちょっと、なんで笑うのさ!」
「くくっ……いや悪い、お前がそんなにムキになるのも珍しいな?」
「う……るさいな、もう! とにかく! 俺は今まで通り二人の時しか名前で呼ばないからね!」
滝がそう断言すると、跡部は滝の耳元に唇を寄せて、囁いた。
「まあ、それでもいいさ……今はまだ、な」
「!! も、もう跡部なんかしらないっ」
そう言って滝が会議室を出ていってしまったあとには、楽しそうに笑う跡部の姿があった。
111121
フォロワーさんとの話で生まれた話
当初の予定とかなりズレた気がしなくもない←
時期は一年生の後半くらい