恋愛未満なボクラ
午後6時40分ちょうど。
部活を終えた彼等が会う時間。
どちらが言い出したわけでもないが、二人の家の中間の公園に寄り道をするのがいつの間にか当たり前になっていた。
「よう手塚、今日は早かったんだな?」
「跡部か、今日は部活がミーティングのみだったからな、図書室によってから来たのだがそれでも早くついてしまったようだ」
そして、いつも決まったベンチの決まった位置に腰掛ける。
中学三年の終わり頃から始まったこの会合も、そろそろ二年半が経とうとしていた。
二人とも何も喋らずに解散するときもあれば、一年分くらい喋るときもあった。
今日もまた、しばらく沈黙が続いていたが、その静寂を破ったのは手塚だった。
「そうだ跡部、お前はこういう物は好きだったと思ったが…」
そう言って手塚が鞄から取り出したのは紅茶の茶葉の缶だった。
「ん?ああ、紅茶は好きだが珍しいな、どうしたんだ?あーん?」
「母が親戚から頂いたらしくてな。家では紅茶はあまり飲まないから跡部にどうか、と」
「ああ、有り難くもらっておくぜ」
そしてまた、沈黙。
しかしその静寂はけして居心地の悪いものではなく、むしろお互いに心地いいと思えるものであった。
その心地いい静寂の中時間は過ぎていき、普段なら解散する時間になった。
しかしどちらも動こうとしないのは、この空間があまりに居心地が良すぎるためか。
「おい手塚」
「なんだ、跡部」
「今度の休み、俺ん家に来い。せっかくの紅茶だ、俺様が直々に振る舞ってやる」
「…楽しみにしている」
「ふん、じゃあな」
「ああ…また、明日」
跡部の言葉が帰るきっかけとなったようだ。
きっかけがなければ帰れないほどに居心地がいいのは久しぶりだった。
そしてお互いに、紅茶があくまで口実に過ぎないことはわかっていた。
これが、素直になれない二人の精一杯の歩み寄りなのだろう。
今はまだ、友達以上恋人未満な二人。
この、あくまでも恋愛未満な関係を楽しんでいるのだ。
110922
お待たせしました!
相変わらずの難産でしたが意外と気に入る出来になりました…!
みりりん様、どうぞ受け取ってくださいませ