手紙
『手紙を書こうと思いペンをとりましたが、思っていたよりも難しいですね。
口で伝えるよりも簡単だと考えて手紙にしたんですが、文章が浮かんでくれません。
書いてそれが形として残るからでしょうか。
言葉は多くを口で伝えても忘れてしまいますから、けれど言葉も誰かに伝えれば記憶に深く残ります。
とにかく人に自分の思いを伝えるのは簡単ではないのですね。
さて、取り留めがなくなりそうなこの手紙はもう終わりにしましょうか。
今度は午後のお茶の時間にゆっくりとお話ししましょう。』
誰に宛てられたかわからないこんな手紙が、主のいなくなった部屋の机の上に綺麗に封をされて置いてありました。
きっと、口下手だった部屋の主が今度この部屋に戻ったときに送ろうとしたんでしょう。
「まったく宛名くらい書いてくれててもいいじゃない」
ぽつりと呟くと、我慢していた思いがどっと溢れ出て涙が零れ落ちました。
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