ノック*



ドアを叩く音が響く

コンコンコンと控えめな音が響く


しばらく経ってドンドンドンと派手な音に変化した



でも出てはいけないから

母に誰か来ても開けてはいけないと言われているから出てはいけない…


しかし私は離れずにじっとドアの前に居ました

ここに居ないとならないと何故か思ったんです


「おいっこら、おるんはわかっとるんやぞ」

苛立った様子の声とドンドンと叩く音が響き―



私はドアに手をかけました

鍵を開けドアを開けて

そこには想像していた出で立ちとは違うスーツをきっちりと着た男の人が居ました


曖昧な記憶だけれどひどく驚いた様子でした



私は母は今仕事で居ませんと伝えました

その時は酷く怯えていたので泣きそうな顔だったはずです


男の人は申し訳ないような顔をしていました


その後男の人は私に名刺を渡して帰って行きました



あの人があんな顔をする必要なんてありはしないのに

やりたくもない仕事をしている原因はあの人にはないのに


そう思うと不思議と怖くなくなりました

逆に私のほうが申し訳なくなりました



だって悪いのは全部母だから…

私や父や祖母にまで偽り続けていた母だから


家族である以上断ち切れない何かがある

私は産みの親である母を憎もうにも憎みきれない


けれどもとは赤の他人である父は離れていった

私はそんな父を怨むつもりはない

自分達家族を捨てたとも思わない


嫌気がさして当然

私も家族でなければ離れていたでしょうから



けれど何度も繰り返えされればいくら家族であっても私は許さない



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