羊、だ… |
今日もいつもみたいに沢山の洗濯物をしようとして、井戸から水をくもうとしたけど水がもうなかった。きちんと補充しとけばよかった、と後悔しても水が増えるわけでもないから、今日は川の近くで洗濯しようと川へ向かった。
洗濯用のたるに水を入れた。たくさん入れて、そろそろ洗濯を始めようと思ったときに、ふと人の姿が見えた気がした。
一回気になってしまったものは考えてなくても頭がそっちにいってしまう。
バレないように少しずつ近づいていくと、そこには寝ている男の人がいた。
「きれい…」
つい口に出してしまったのに驚いて、口を塞いだ。誰にも聞かれてないのにどうしてこんな無駄な動きをしたのだろう。
金色のふわふわしたくせっ毛。まつ毛は私よりも長くて、ほっぺたはぷにぷにしてそう。背は少し小さそう。なんか似た動物がいた気がする。あ…。
「羊、だ…」
「んっ…?」
急に目を覚ました彼は、ジーっと私を見つめた。目を反らす勇気もなくて、私も彼をジーっと見る形になってしまった。…もの凄く恥ずかしい。
「おめぇ何でココにいるんだ?」
「え、あ…洗濯しに来てて…」
「へぇ…で、洗濯は終わったんか?」
「あ…!」
洗濯する前に彼を見つけてしまったから、何にも作業してなかった。せっかく天気がいいのにもったいない。
私は彼に「失礼します」と一声かけて離れようとしたけど、腕を掴まれた。不思議に思って頭にはてなを浮かべていると、彼はこう言った。
「名前なんていうんだ?」
「…」
この質問が一番嫌い。
名前なんてすぐに答えられるものだけど、今の私には二つ名がある。『シンデレラ』なんて言いたくないし、大っ嫌いな名前。本当はお母さんにつけてもらった名前で名乗りたい。
でも、私にはその一歩の勇気がないからこう言ってしまう。
「シンデレラ、です」
「オレは芥川慈郎。ヨロシク!」
「こちらこそよろしいお願いします」
「うん!」
「洗濯頑張ってね!」って芥川さんは手を振った。
あー、早くしなきゃあの人達に怒られてしまう。