じ…慈郎……さん






私が舞踏会に行ってから数日が経った。芥川さんと踊った人は誰なんだ、という話が村中に広がっていた。
私だって分からなかったんだ…。でも納得する。今の姿と昨日の姿じゃ全然の別人だ。
自問自答をしながら、久しぶりにあの川へと向かった。



「芥川さん居た…」



別に会うのはいいんだけど、あの日から会ってないから、何となく恥ずかしい。私、どこか変じゃないかな…。
一人で云々していると、私に気づいた芥川さんが満面の笑みで呼んだ。



「あきちゃーん!」



あぁ…名前で呼んでくれた。私がここにずっと居ていい、存在していいんだなって思った。涙がこぼれ落ちそうなのを我慢して、芥川さんの元へと駆け寄った。



「えっへへ。舞踏会、ぶり?」

「そうですねー。まさか王子様が芥川さんだったなんて…」

「びっくりした?」

「当たり前じゃないですか」



顔を見合わせて笑いあう。この時間が幸せなんだなぁって思う。



「ねぇ、あきちゃん」

「はい?」

「オレもあきちゃんって名前で呼んでるでしょ?だから、あきちゃんにも、オレの名前呼んでほしいなぁ」

「芥川さんって呼んでますよね?」

「ううん。"慈郎"って呼んでほしい」



下の名前…。
きっと呼んでほしい理由に特別な意味なんてないと思う。でも、胸がすごくドキドキして、喉がからからになってきた。そんな状態から頑張って声を振り絞った。



「じ…慈郎……さん」

「はいダメー!も一回!」

「慈郎、くん…っ!」

「ん〜…許す!」



よくできました!といいながら頭をなでてくれた。頭をなでた手は前髪までいって髪をかきあげた。不思議になって慈郎くんを見つめると、おでこに柔らかい感触。



「ごほうび」





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