東弥子。両親は海外にいる。慈郎くんの彼女。氷帝学園の生徒。
これしか知らない私は、もっとたくさん思い出したくて、慈郎くんに「今日はいっぱいお話ししたいの!」と言ったら、「そんなこと言われなくても、最初からするつもりだったしー!!」って答えてくれた。私の頭を撫でながら。
「慈郎くんって何部なの?」
「当ててみて!!」
「んー…テニス?」
「正解だしー!!」
「弥子天才!」と慈郎くんが笑いながら頭をわしゃわしゃした。犬になった気分。
撫でられるのが気持ちよくて目をつぶったら、ふと頭に慈郎くんがテニスをやっている姿が出てきた。
「マジック、ボレー…?」
「えー!?弥子そこまで分かっちゃうなんて本当に天才だしー!!」
「あ、ううん。最近、慈郎くんと一緒にいると色々思い出すの」
「ほー!」
「でも、ほとんど慈郎くんのことばかりなんだけどね」
「そっかー」
うんうんとうなずいている慈郎くん。でも、急に何かを思い出してさっきまでの笑顔がどこかにいってしまった。
「でもこれ以上は思い出してほしくなかったりして」
どうして?って聞きたかったけど、あの太陽みたいな笑顔が一瞬で消えるほどのことだ。聞いてはいけないことなんだ。さっきの言葉を聞いてないふりをした。きっと無意味なことかもしれないけど、私にはそれしかできないから。
でも、それでも、悲しい顔は見たくないから、ベッドの上に置いてあった慈郎くんの手を、私の手でぎゅって包んだ。