「あ、忘れ物…」
昨日退くんが大事な書類なんだって言って机に置いていたファイルが、まだ机の上に置いてあった。退くんはもう出勤していていない。会社も近いから、届けに行ってから仕事に行こう。
いつもより早く準備をして家を出た。
退くんの会社に着いた私は、受付の人に退くんが来るように頼んだ。退くんがくるまでロビーのソファーで待っていたら声をかけられた。
「モコじゃないですか」
「沖田さん…?」
「何しに来たんですかィ?」
「退くんの忘れ物届けにです」
そう言うと沖田さんは「来るまで一緒に待っててやるでさァ」と言って隣に座った。
正直この前の合コンでキスされてから話すのが気まずかったけど、沖田さんが平然に話しかけてきたから安心した。沖田さんも酔ってて覚えてないんだよね。
「モコ」
「何ですか?」
「あの時のキスは酔ったノリじゃねぇでさァ」
覚えてた…!?
その話にこれ以上触れたくなくて顔を逸らした。
「あれは」
「モコちゃん!」
「あ、退くん!」
沖田さんが何か言おうとしたときに、タイミングがいいのか悪いのか退くんが来た。
私達に駆け寄ってきたときに、げっと退くんの声が聞こえて、沖田さんは睨んでいた。怖い。
「はい、退くんの大事な書類。忘れてったから」
「あー…ありがとう!かばん探しても見つからなくてどうしようかと思ってたんだー!」
「これぐらいしか役に立たないから」
「いやいや、もう十分だから!ありがとう」
「仕事行ってらっしゃい」と退くんに言われて会社に向かった。
沖田さん何言おうとしていたんだろう。キスはノリじゃないってどういう意味なのかな。うーん…外国の挨拶とか?
>>しおりを挟む