『おかあさま…どうしておかあさまはいつもぼろぼろになってかえってくるの…?』
『私があの人と一緒にいるからよ』
『…マナミね、おかあさまがしんぱいなの』
『大丈夫よ。だってこれは私が選んだことだから…。貴女だけは命にかけても一生、絶対に守るわ』
『ずっといっしょ?』
『そうよ』
『おかあさまだーいすき!』
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「…夢」
懐かしい記憶。まだお母様がいたころの…楽しかった記憶。頬に手を当ててみると涙に触れた。泣いていたんだ。
もういい時間だし起きようと体を持ち上げると、隣に誰かが寝ていた。
「アヤト…」
ぐっすりと寝ている彼の頭をゆっくりと撫でた。
昔の自分を思い出す。寝るときにはいつもお母様に頭を撫ででもらっていた。
ん、と彼の声が聞こえた。目がゆっくりと開いていった。
「おはよう」
「…おい、マナミ」
「ん?」
「泣いてたのかよ」
彼が何を言っているか分からず、頬にまた手を伸ばすと、さっき流れていた涙とは別の涙が流れていた。
「懐かしかったから」
「アバズレの妹か」
「うん。こうして撫でてくれたなって」
「ならよ…っ」
「きゃっ!」
起こしていた体を、彼がベッドへと倒した。そして、ぎゅうっと優しく抱きしめた。状況についていけず何もできないでいると、頭に手がのせられた。
「アヤト?」
「これで寂しくねえだろ」
「…うん!」
ゆっくりと大事にするように撫でてくれた。私は彼にぎゅっと抱き返した。落ち着く。
「私ね、アヤトの匂いが一番落ち着くの」
「どうしてだよ」
「一番長く一緒にいたからかもしれない。初めて会ったのは、アヤトだったから」
「そうだな」
すーっと息を吸い込む。彼の匂いが体を巡っていく。そう思うと胸が高鳴った。
「アヤトは…頭撫でられたりするの好き…?」
「マナミだから好きなんじゃね」
「そっかぁ。私もここの人達なら大好きだよ」
「ちっ…俺だけじゃねえのかよ」
「ふふふっ」
結局、学校に行くギリギリの時間までこうしていた。
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「マナミちゃんアヤトばっかりずるーい」
「アヤトのくせして何してるのさ!…今度っ…うっ、僕も…マナミの部屋に、寝に、行きます…からっ!」
「いいよ、おいで!また4人で寝よ?」
私の発言に他の兄弟は焦ったのか慌ててた。
「マナミ。いい加減、自分の発言に気をつけて下さい。私はそんな不躾に育てた覚えはありません」
「レイジはマナミの母親かよ…だる」
「おいマナミ。何かあったら呼べよ」
…でもやっぱり。
「みんなと一緒に寝たいなぁ」
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「ちょっとー!マナミちゃんの隣はボクだってばー!」
「るせえ!オレだよ!」
「ひっく…マナミは…っ、僕のです!!!」
「貴方達!いい加減静かになさい!!」
「俺様を忘れんなっ!」
「…だる」
私の隣争奪戦が始まっていた。でも、みんなが騒がしいと何だか安心するんだ。
「おやすみなさい」
明日もみんながいますように。
20130123