柔道部に入ってからの放課後は、嵐さんと逃げ回る毎日になっていた。今日もいつもみたいに逃げていたんだけど、人がいたのかぶつかってしまった。ヤッベー。 とりあえず安全確認して、メガネが飛んでいったみたいだから拾いに向かった。
「あー!マジゴメン!大丈夫だった?」
「…はい」
「あ、はい、これメガネね」
「…ありがとうございます」
ぶつかった本人にメガネを返そうと思ったんだけど、彼女は苗字名前ちゃんだった。死神とか呼ばれてたっけ。そんなコワいもの興味ないから気にしなかったケド。
名前ちゃんのメガネ、だてメガネだったのに気づいて、目をじっと見つめてみた。すると、彼女の瞳は真紅色をしていた。すごく、真っ赤。お互いに見つめあってなんかビミョーな時間ができていた。
「…そんなに見つめられるとメガネかけずれぇんだけど…あ、もしかして今見えてない?」
「ううん、違う。だって、私と普通に話してる人だから……つい」
「あー…ナルホド」
本人も不思議に思っているのか、すごく分からないって顔をしていた。
「オレ、コワいのマジムリなの」
自分から苦手もの教えちゃうなんてレアだぜ?なんせ、女のコにはカッコつけてぇし…。 でも真紅の瞳に見つめられてると、ウソや冗談なんて言えなくなる。
「にしても、苗字さん……名前ちゃんキレイな目してんのに、どうしてだてメガネしてんの?もったいねーじゃん」
オレがそう言うと、急に黙った。もしかしてオレ言っちゃいけないこと言っちゃった? 不安になりながら彼女の顔を覗くと、涙が目に溜まっていた。 ナルホド…と思ったオレは、彼女の頭をなでなでした。
「この目……気持ち悪くないの……?」
「うん」
「初めて…っ」
だから、だてメガネなんだ…。ということはさ、この格好も何か他に隠したい…見せたくない部分があったりすんのかな。あ、いいコト考えた。
「今度の日曜日、空いてる?」
「…どうして」
「ありのままの名前ちゃんと一緒にいてみたいなぁって。ダメ?」
「……ううん、平気」
会ったばかりだから、内心断られないかソワソワしていた。でもよかった。断られなくて。 待ち合わせ場所を教えて、オレは嵐さんに追いかけられているのを思い出してこの場から走り出した。
あれから名前ちゃんのことが頭から離れられなかった。
20121112
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