ウィッグを音楽室に落とし忘れたままなのを、今朝思い出した。きっとしたら先輩が拾ってくれているとは思う。学校…このままで行くのは少し嫌だ。変わろうという気持ちはあるけれど、こんな急には…。あ、と私は助けを求めに彼にメールしてみた。すると、メールの返信ではなく、電話が返ってきた。
「もしもし」
『もしもーし。あのさ、アンタがイヤじゃなかったら家まで迎えに行くぜ、オレ』
「家分からないだろうから、近くの公園で平気」
『ん、オッケー。なんだったらついでにメガネ外してくればよくね?』
「…ニーナがそういうなら」
『よし、じゃ待ってる』
金髪姿で制服を着たのは初めてだ。恐怖心と緊張を抱えたまま待ち合わせの公園までむかった。 公園には既に彼がいて、大きく手を振ってくれた。それを見て少しホッとした。
「金髪名前ちゃんの制服姿マジパネェ!マジカワイイ!」
「ニーナ、恥ずかしいからやめて」
「恥ずかしがるアンタもマジカワイイぜ」
「う、うるさいっ!もう行く!」
私は彼の手をぎゅっと握って歩き始めた。まだまだ収まらない恐怖心と緊張。彼に会ったら、そこに何か加わって、余計に手が震えていた。だから手を繋いだ。それが伝わったのか、彼は握り返してくれた。そして「レッツゴー!」と言った。
・ ・ ・
学校に着いても手は繋ぎっぱなし。誰か支えてくれないと…思い出してしまう。
「準備オッケー?」
こくり、と頷いた。彼と一緒にクラスに入っていった。そしてクラスはざわつき始めた。…ここから逃げ去りたい。
「おい、ニーナ!この写真の金髪の子誰だよ!…って後ろの子誰?」
「てかマジそんなコトよりも写真って何?」
「ほら」
渡された写真を、ニーナは私にも見えるように見てた。それは、目にゴミが入った時の写真だった。写真の角度のせいでキスしてるように見える。 ニーナの顔を見ると、ボッと真っ赤になった。観覧車の時と同じ反応だ。可愛い。
「え?マジ…?」
「とぼけんなよ!というか、ちょっとニーナどけよ!」
「あ、ちょ」
「っ!」
ニーナの友人が無理矢理私の前のガード(ニーナ)を退かした。
「あああああ!写真の金髪の女子!!なになに?もしかして転校生?そんな子に手出すなんてニーナはえぇ」
「ち、違います!この子は名前ちゃんだし」
「え、うそ…死神?」
うわああぁぁ。どうしよう。どうせ気持ち悪いとか言うんだ。だんだん空気が変わっていくのが分かった。じわじわと涙が出てきた。ニーナ…っ。
「しにが……あ、苗字さんめっちゃ可愛いじゃん!」
「え!?苗字さんだったの!?」
「苗字さんどうしたのさー!」
それは私の知らない空気だった。温かい…空気。ニーナを見ると、優しい顔をしていた。嬉しくなって思わず彼に向かって笑顔を見せた。
思っていたよりも、このクラスは優しかったみたいだ。あの時のことは忘れられないけど、受け入れてくれる人がこんなにいるんだと知れただけで、とても嬉しかった。
「ニーナ、みんな……ありがとう…っ」
涙が止まらなかった。
20121220
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