忘れんぼう


「忘れてる…?」
「何を?」
「オレのこと。」


遠距離恋愛中。慈郎くんとは中々会えなくて、メールでやり取りをするのがほとんどだった。お互いに長い休みが取れ、日にちも被っていたから、久しぶりに会うことができたのに、この一言だ。私はいつだって慈郎くんのことを思っていた。いや、言い過ぎかも知れない‥‥慈郎くんのことを考えずに過ごしていた日は確かにあった。でも忘れることはなかった。


「忘れてなんかないよ。むしろ会いたくて会いたくて、慈郎くんのことで頭がいっぱいだった。」
「そっか〜うれC〜。」
「‥っ。」


急にキスされた。しかも少し激しいやつ。
キスすることも久しぶりすぎて、息の仕方も忘れた。段々苦しくなって、握っていた手にぎゅっと力を込めたら、余計に舌で遊ばれた。なんて奴だ‥。


「や‥やめっ‥!」
「やめない。」
「ん〜〜っ。」


ようやく口が離れた。誰のか分からない液が糸をひいてぷつんと切れた。そして唇をひとなめされた。


「久しぶりのキスもレモンの味だった?」
「そんなわけないじゃん‥本当苦しかった。」
「嬉しかったくせに言うね〜。」
「うるさい。」
「オレはずっと名前が好きだよ。」
「知ってる。」


私だってずっと慈郎くんが好きだよ。
知ってた?



芥川慈郎
2016/04/21

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