どうしようもない君にきゅんとくる
「あ。」
ぱきっと言う不吉な音がした。ふと足元を見ると、大事にしていたストラップを落として踏んでいた。拾おうと手に取ったら、破片がぱらぱらと落ちていった。これは直らない、直せない。
どうしよう、と一人で悶々と考えていた時に限って彼はやってくる。どうしてこうもタイミングが悪いんだろうか。
「なに。まだ残ってたの?」
「…藍ちゃん。」
顔を見ただけで、堪えていたものがぶわっと出た。涙、泣きたいわけじゃないのに止まらない。
「どうしてなくの。」
「だって、藍ちゃん…からっ、貰ったストラップ…踏んだ、じゃった…っ。」
「ふぅん。」
「藍ちゃん…怒らない…っ?」
「怒ってる。」
藍ちゃんだから大丈夫だとか、そんな発想は甘かった。藍ちゃんだからダメなんだ。
「人から貰った物を大事にできないんだね。」
「してた!」
「言い訳は耳障りなだけだよ。」
「…っ。」
そういうと彼は両手で私の首をぎゅうっと締め付けた。息できないし、藍ちゃん手加減なんて知らないから苦しい。
「ボクには悲しい気持ちだってあるんだよ。それを出させる名前なんてクズだね。」
「…。」
「あ、苦しくて反抗もできないのか。人間って脆いよね、ホント。」
藍ちゃんは手をパッと離した。急に離すもんだから、空気が一気に入ってそっちの方が苦しかった。
「ねぇ、名前。」
「な、に…っ?」
「名前のこと大好きだから、こんなこともうしないでよ。こんな苦しくて悲しい感情はもうイヤ。」
藍ちゃんはいつも最後にこう言うから離れられないんだ。
美風藍
title:虫喰い
20121019