胸が許さない
まさか見ちゃうなんて思わなかった。
久しぶりに散歩してみようかなって思ったのが間違いだった。彼の好きな場所まで歩いていくと、そこには彼氏と知らない女の人。
早とちりはいけない…そう思って少し眺めていたら、顔を近づけて唇と唇を重ねていた。
あー…私なんかその程度だったんだ。
浮気させちゃうほど、魅力が足りなかったんだ。
そう考えれば考えるほど、目から流れる涙は止まってくれなかった。
家に帰ろうと思って振り返ると人にぶつかってしまった。
「あ…すみませ、」
「名前!?なんで泣いてんだ…よ……」
岳人くんの目線は彼氏に向いていて、気づいたみたいだ。
「えへへ…浮気、されてたみたい…。それとも、私が浮気相手だったり」
笑いながらそういうと、岳人くんは手を掴んで引っ張りながら歩き始めた。
「とりあえずここから離れるぞ!あんなもん、ずっと見てんじゃねーよクソクソ!!」
「うん…」
「とりあえず、オレん家直行な。その状態じゃ、家にも帰れない、」
「やだ。…だって岳人くんの隣、慈郎の家じゃない。慈郎に、誤解されたくない…」
「はぁ?」
意味が分からないって顔している。そりゃそうだよね。浮気現場見てるのに彼氏に誤解されたくないとか、普通言わないよね。でも…。
「でも…私、まだ大好きなの!愛してるの!!…離れるなんて考えられないし、彼が近くにいなかったら、私どうにかなっちゃいそうで怖いの…!!彼が誰を一番好きなんて関係ない…。そばにいてくれればそれでいいの!!」
「…んっ、っ……うわああああああああん!!」
泣いた。
涙がなくなるまで泣いた。
それでも、大好き。
胸が許さない/芥川慈郎
20120209