あんぱん卒業




仕事が終わって、自室に戻り、大量に買ったあんぱんをひとつ食べようと思ってしまっておいた場所を見ると、ひとつも残っていなかった。
最近こういうことがよくおきてる。まぁ、あんぱんがなくなるだけだから、別に害はないけど。金銭的には害はあるけどね。

犯人はまだ見つからなくて、大体見当はついてるけど、わざわざ自分から聞きに行くのは気が引ける。間違ってたら怖いし。
だからオレは仕事があると見せかけて、天井裏に隠れた。部屋には大量のあんぱんを置いて。

何時間が時間が経って、部屋の障子が開いた音がした。ゆっくりと覗き込むと、そこには屯所にはいてはいけない人がいた。でもその人はオレのよく知っている人で、


「名前?」


オレの彼女だった。


「や、山崎くん!?」
「何してるの?オレの部屋で」


オレは天井裏から降りて、名前に問い詰めた。返事は「あー…うー…」とかしか返ってこなくて、少しイライラ。
オレの様子に気づいたのか、ぼそっと「怒らない?」と聞いてきたから、オレは「怒らないから言ってごらん」と返事をした。


「あんぱんにね…」
「うん」
「あんぱん……私より山崎くんに愛されてる、気がして」
「うん」
「…嫉妬、した」


つまり、あんぱんに嫉妬しちゃったから、オレのあんぱんを盗んでいったってこと。あんぱんに嫉妬する人なんてオレ初めて見た。


「山崎くん、やっぱり怒ってるよね…?」


オレの顔色を見ながら小さい声でしゃべりかける。オレが怒る?そんなことない。


「あのね、名前。オレは別にあんぱん好きじゃないし、仕事をするときだけ食べるっていうオレのルール。だからあんぱんに嫉妬するなんて馬鹿げてる」
「……うん」
「でも、そんな名前を愛してるんだから、心配しなくても大丈夫。どんなものどんなひとよりも名前しか好きじゃないし愛してないから。ね?」
「はい!」


そろそろあんぱん卒業しようかな。



山崎退
20110802

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