死ぬかと思った




「もしもし?」
『誰っすか』
「私だよ、私」
『名前言わんと分からん』
「…ばか財前」


私と財前はいわゆる恋人同士で、財前は大阪、私は東京という遠距離恋愛をしている。

いつも通り、私は財前に電話をかけていた。でも、今日はいつもより早い時間。ちょうど部活が終わるぐらいの時間。
他愛もない話をしながら歩いていると、目的の場所まで着いた。勝手に入っていいのか分からなくて、うろちょろしていたら声をかけられた。


「どないしたん?こんなところで」
「え?あ…あの、テニスコートに行きたいんですけど、入っていいか分からなくて…」
「お、ならちょうどええやん。オレテニス部やし、一緒に行こうっちゅー話や。ほな行くで!」
「え!?あ!」


急に走り出すものだから追い付けなくて、見えなくなってしまった。こんなに足速いのにどうしてテニス部なんだろう。

そういえば電話繋がったままだ、と思って携帯を耳元に持っていった。


「…もしもし」
『話しても返事が聞こえんし心配した』
「ごめんなさい。ちょっと他の人と話してたから」
『浮気っすか?』
「違う!違う!ありえない!」


『ま、しゃーないっすわ』とお決まりの台詞を言った財前。

そんな中、ようやくテニス部に辿り着いた私は、フェンス越しに携帯を持って会話しているであろう彼をすぐ見つけた。
気づいてほしいけど気づいてほしくなくて、思わずうずくまっていた。


『そういえば珍しいな…こんな時間にでん』
「お!さっきの姉ちゃんや」
「あ、どうも」
「置いてってごめんな?でも無事にたどり着けたならよかったわ」
「こちらこそありがとうございました」


お礼を言い終わると電話から声が聞こえた。


『なぁ、めっちゃ知っとる人の声するんやけど』
「ぐ、偶然!」
『謙也さんみたいな声』
「謙也さん?」


私がオウム返しのように言うと道案内してくれた彼が振り返った。


「なんでオレの名前知っとるん!?」
「ざ、財前が…」
『…』
「え!姉ちゃん財前の彼女!?」
「そういうことなんで先輩、道案内ご苦労様でした。お疲れ様でした」


「ちょ、財前!?」と言った謙也さんを無視してスタスタと校門まで歩いていった私と財前。あ、電話切らなきゃ。


「なんで名前がここにおるん」
「………だから…」
「聞こえへん」
「財前、誕生日だから、お祝いしようと思って…」


少し顔を赤くした財前は見られたくないのか、ぎゅって抱き締めてきた。


「…めっちゃ嬉しいっすわ」


満面な笑みで言った財前を見て、好きすぎて死ぬかと思った。



財前光
20110721

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