雨あがり覗く光 (5/9)



私は無我夢中で前に続く道を走った。


分かってた。私が口出す権利はないんだって。

きっと風丸くんだって必死に悩んだ。それでも頑張ってみんなに打ち明けた。
分かってた、一番辛いのは風丸くんなんだって。

薄々気付いていた。風丸くんは少しずつサッカーに惹かれていたんだって…。


でも、やっぱり好きな人を失うのは嫌。行ってほしくない。

好きだった、風丸くんが。グラウンドを駆け抜ける風丸くんを見るのが大好きだった。私の、幸せだった。

なのに、彼はもう陸上部ではない。サッカー部。

その事実は今になってもなお、信じることは出来なかった。



辺りに、私の脹ら脛辺りにまで水が跳ねる。ローファーに水が染みる。


でも、どんなに足が濡れようと、どんなに身体が濡れようと構いやしなかった。


前髪から雫が垂れ、涙が雨かも分からなくなりながら私は目に手の甲を当てる。



「…っ…風丸、くん…」



私は雨に打たれながらもしゃがみ込んだ。


もうびしょ濡れになった髪も、制服も、何も気にならなかった。


でも、ある時。私に降ってきていた雨は突然止まった。

バサッという音と同時にポツポツと聞き慣れた音。


私は目を瞬きさせながらも後ろを振り返った。




「風邪、引くぞ…」



「風丸…くん…っ…」


風丸くんはそう言いながら私に傘を差してくれていた。

でも、そう言う風丸くんもびっちょりと濡れている。

それは、急いで探しにきてくれた証拠で。
あんなにも大切にしていた髪が濡れている、それが何よりの証拠だった。

きっと抵抗を感じるのを惜しみ、傘も差さずに探しにきてくれたんだろう。

それを理解した私はまた泣きそうになってしまった。


眉を割りながらも風丸くんの瞳をまじまじと見つめると、風丸くんの表情が歪んだ。



「泣いてるのか…?」


「っ…!な、泣いてなんかいないよっ…」


雨が降る中走ってきて、こんな涙なんかバレないと思っていた。

自分でさえ、涙か雨か分からないくらいだったのに。


これ以上心配かけまいと私はきっと流れているであろう涙と雨を拭い、立ち上がった。


でもそんな私を見てなのか風丸くんはまた顔をぐにゃりと歪ませると、その場に傘を落とし、ぎゅっと私を抱きしめた。



「っ…!風丸くん…」


風丸くんは何も言わないまま黙って私を優しく抱きしめてくれた。

時折私を抱きしめる腕に入る力が心地よい。


雨に濡れていたことさえ忘れ、私は風丸くんの温もりを感じながらぎゅっと服を握った。

その服はもう、あの時の彼の服ではない。でも、私は身を預けるように黄色の服に顔を埋めさせた。


どんなに服が変わっても、優しい彼の温もりは変わらない。

そんな優しい風丸くんだからこそ出した結論。助っ人、という道。


私はやっと、決心をつくことができた。



「やっぱり、俺…」


一瞬ピクンと風丸くんの手が震えた。

それは、勇気を出して何かを言おうとしている記し。


私は風丸くんの腰に回している腕に力を入れながらも絞るように声を出した。




「私は…ずっと応援してるから…。たとえ道が変わっても、ずっと、ずっと…」



やっと、想いを言えた。やっと、彼を見送る決心がついた。

それは、優しい彼だからこそ、大好きな彼だからこそ、そう思えたの。



いつの間にか降っていた雨は止み、鉛色の空から一筋の光が差していた。


進む道は変われど、助っ人としてだけなのかもしれないけど。

でも、私はやっと、好きだからこそ応援したいと思えることが出来たの…。




「……舞華、ありがとう」




雨あがり覗く


その光は温かく私たちを包んでくれて。

新たな道しるべとして、私たちに降り注いでくれていたんだ…。


今までありがとう、風丸くん。

たくさんの思い出を―…。


end.

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