曇りがかった空 (2/9)
私はいつものように駆け抜ける彼を見て、頬を緩ませる。今日も陸上にはぴったりの晴れ模様。
でも、次第に雲はかかり始めていたんだ―…。
それは休憩時間。1人の訪問者によって始まった。
「ふーん…。サッカーねぇ…」
「風丸、お前一流プレイヤーと競ってみたいって言ってたろ?もしやる気になったらいつでも言ってくれよ。放課後は鉄塔広場で練習してるから。あぁそこに来てくれてもいいや。じゃあよろしくなー」
嵐のように現れ、嵐のように去っていった彼、円堂守くん。
「一流ってのは陸上の話だぞ…」
そんな風丸くんの声でさえ、空へと消えていってしまう。
『帝国学園来たる サッカー部員、大募集!』というボードを抱え、淡々と語って行った後、彼は私たちの前から姿を消した。
「何だったんだろう…」
突然すぎて頭がついていかない私を余所に風丸くんは何事もなかったように次なる準備を始めている。
「風丸くんは…何も思わない…?」
「ん…?何が?」
「えっと…サッカー…やってみたい、とか…」
はっきり言えば怖かった。そう風丸くんに聞くのは。
もし、その私の言葉を肯定してしまうなら。
もし、その言葉に少しでも気がいってしまっているなら。と。
「んー…今は、な…。最近調子もいいし…それに…」
ドクンと高鳴る私の鼓動。その風丸くんの言葉にちょっぴり安心した。
でも、『今は、な…。』その言葉にちょっぴり胸を痛めさせた。
『それに…』この言葉も気掛かりだった。
風丸くんは何を言うつもりだったんだろう…。
私は小さく首を傾げるが、風丸くんは眉を割ったまま何も言わなくなってしまう。
「風丸…くん?」
「ま、まぁとにかく今は練習だ。またタイムよろしくな」
風丸くんはそう言い捨てると私にストップウォッチを渡してスタスタとスタートラインに向かって走っていった―…。
曇りがかった空
まだ、私は気付けない―…。
to be continued...
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