キラキラ太陽の下 (2/5)
次の日の練習、俺はなんとなく胸を弾ませながら参加していた。
今日の夕方には帰ってくる。待ちに待っていたアイツが。心なしか神童も嬉しそうに見える。だって俺と神童とアイツは小さい頃からの友達、いわゆる幼なじみだから。言葉にしなくたって分かっているだろう、お互いに。
真っ青な空の下、神童から休憩の指示が出される。ふぅと一息吐きながら俺は地面へと座ろうとした。その時だった。
「蘭ちゃーん!拓人ォー!」
忘れることのない、甲高いアイツの声。忘れられなかった、アイツの姿。
それが俺の目の前に映った。
「陽菜!?」
陽菜は雷門の校門から第二グラウンドに向かって勢いよく駆けてきた。幾つかの階段をも駆け下り目指すは俺らの元。
そんな陽菜に未だ驚きを隠せない俺らとは裏腹に陽菜はまだスピードを落とさない。
「蘭ちゃん久しぶりッ!」
「わッ!」
挙げ句の果てに陽菜はそのスピードも落とさぬまま俺に抱きついてきて。その勢いに身体が耐えられなくなってそのまま地面へ叩きつけられることになった。俺、ディフェンダーなのにな…。
「いてて…」
幸い陽菜は俺の上に乗り怪我はなかった。まぁそれは良かったものの、上に乗ったまま陽菜は退こうとせず目をキラキラと輝かせたままハキハキした声を放った。
「久しぶり!久しぶりッ!」
そして見慣れた笑顔をもう一度この目で見て、ようやく陽菜が帰ってきたということを理解した。
「霧野先輩!誰ですか!?この女の人…」
「まさか先輩のガールフレンドだったりして!」
「そうなんですか、霧野先輩!?」
「いや…違うって…」
「そんな目の前でイチャイチャしてるとこ見せつけないで下さいよ、先輩」
「久しぶりってことは…遠距離恋愛だったんですか!?」
「だから違っ…!」
「ちゅーか彼女いるなら教えてくれれば良かったのに」
「というか霧野に彼女なんかいたか?」
俺の言葉なんて完全に無視して1年(1名ほど2年)は、今の状態を見て勝手に夢を膨らませている。陽菜も弁解してくれればいいのに、と陽菜を見てみればニコニコと笑顔を浮かべている。ちょっとピクリとしたのはみんなには内緒。これから先、俺の思うように進まなければいいんだけどと願うばかりだった。
現状の種であるこの状態を早く止めてほしかったりするけれども、そんな俺の願いも虚しく突然陽菜は上半身だけ起きあがらせている俺にぎゅっと抱きついてきた。
「そうだよっ!蘭ちゃんは私の彼氏ー」
「ひ…陽菜ッ!」
やっぱり、来てしまった…。
俺の嫌なシナリオ通りに進みすぎて本当に動揺を隠せない。
「先輩…照れすぎ」
「狩屋ッ…!陽菜、離れろ…!ち、違うからッ…」
「動揺しすぎ」
「う、うるさい!」
狩屋は意味ありげにニヤリと笑ってそう言ってくる。俺は何とかこの状況を打破しようと陽菜を離させた。
「ったく…アメリカ帰りだからって挨拶大袈裟すぎるぞ陽菜…」
「えへへ、だって久しぶりなんだもん」
アメリカから帰ってきた陽菜はいつもそう。よく悪ノリしてしまうし、いろいろと大胆な面がある。今回だってそうだ。
「陽菜…久しぶり。帰ってくるのは夕方じゃなかったのか?」
「拓人ー、久しぶりッ!うん、夕方ってのは嘘なの。1つ前の便に乗って驚かせようと思って…」
神童の介入によりやっとのことで離れた陽菜は神童の前に行く。そしてニコニコと陽菜は俺にも見せた笑顔を浮かべていた。
「神童キャプテン、その女の人は?」
「あぁ、俺たちの幼なじみでずっとアメリカにいたんだ」
「陽菜です!宜しくね!」
「ちぇっ…彼女じゃないのか…」
「だから違うって言っただろ…」
俺は立ち上がりパンパンと砂埃を落とすとやっと誤解が解けたようで安堵した。
それでも相変わらず笑顔を絶やさない陽菜を見て、何となく許してしまうのは俺の陽菜への甘さなんだろうと思う。
キラキラ太陽の下
君はみんなを明るく照らしてゆく―…。
to be continued...