願わくば君の側で

【吹雪視点】


それは突然始まった。僕が、"士郎"ではなく、"アツヤ"という人物になることが。

最初は幸せだった。ひとりぼっちだった僕が、ようやくひとりぼっちではなくなった。

嬉しかった、アツヤが側に居てくれて。


でも、だんだんその均衡は崩れていったんだ…。


それも突然だった。僕が、いや、僕たち2人が、ある女の子を好きになってしまったことによって―…。



「吹雪くん」

「名前ちゃん…」


白恋中に入学して、僕は出来たてのサッカー部に入部した。それは僕が小学校の時、クラブで知り合った名前ちゃんもだった。

名前ちゃんはそのクラブの監督の娘、という存在。時折クラブに顔を出してくれた。それがきっかけで彼女もサッカーに興味を示してくれたようで、今じゃこうして白恋中サッカー部のマネージャーを務めてくれている。


次第に僕は名前ちゃんに惹かれていった。それは、彼も一緒だった。

名前ちゃんに会うと、僕の中の彼が蠢く。僕はたまにその蠢きに負けてしまう時があった。僕は、自身を失う―…。


「よぉ」

「あ、こんにちは、アツヤくん」


言ってしまえば、彼が彼女に惚れたのはこれが理由なんだと思う。そう、彼女は唯一の彼の理解者なのだ。彼女は僕が変わったことをすぐに分かってしまう。

最初はみんな性格が変わる人なんだとしか思わない。本当のことまでは気付けない。だけど、彼女は違った。彼女はすぐに気付いたんだ。

そんな彼女に彼は自分の心の警戒心を解いた。彼は、彼女といるときが一番幸せそうだった。

はっきり言えば僕は、彼に変わっている時は何をしているのか、何を話しているか全ては分からなかった。


パッと映る眩しい視界。どうやらようやく僕に戻れたようだ。


「あ、お帰りなさい」

「名前ちゃん…」


名前ちゃんはにっと僕に優しい笑みをくれる。僕はいつも聞きたかった。

"何話してたの―…?"

って。

でも、臆病な僕は聞けれなかった。怖かったんだ、聞くのが。



「アツヤくん、優しいね…。ちょっと不器用だけど」

「え…?」


突然何を言い出すかと思えばそんなこと。僕は、一瞬で理解した。2人の中で何かがあった、と―…。

アツヤは何を話したんだ。分からない分からない、怖いよ…。

僕は怖さの余り震えた。まるで雪崩を思い出した時のように…。


嫌だ。また、僕は独りになる。

やっと、アツヤもいて、名前ちゃんもいて、独りじゃないんだって思えたのに。

また、僕は独りになるのか。置いてけぼりにされるのか。

もうそんなのは嫌だ。怖いよ。



「吹雪…くん?」


僕はぎゅっと唇を噛み締めた。口から血が出そうなほどに。

もう独りになるのはごめんだ。寂しいよ、辛いよ。


「吹雪くん…!」

「…!……名前ちゃん…」


僕はその名前ちゃんの声でハッと我に返った。自分が考えていたことに無性に腹が立った。

いわゆるそれは2人にくっつくな、と言っているようなものだから。

2人がくっつくことで幸せになるのならば、それを望むべきなんだろう。


「大丈夫…?」

「ごめんね、名前ちゃん…。何でもないよ」

彼女ならきっと分かってる。今、精神的に不安定な状態なんだってことくらい。

でも僕はこれ以上心配かけまいと、小さく笑みを浮かべるとサッカーをするべくグラウンドに向かった―…。


サッカーをしていれば気が晴れると思った。だけど違った。今日は、今日はアツヤになることを恐れた。

雪原の冷たい風が僕の髪を、マフラーを揺らす。それはまるで"アツヤになれ"とでも言っているようで、僕はブルッと肩を震わせた。

僕は立ち止まってまた、ぎりっと歯軋りさせた。


「僕は…」


いつまで経っても、迷子―…。


結局僕は、何も出来ないままグラウンドを去った。そんな僕を、温かく迎えてくれたのは名前ちゃんだった。


「吹雪くん…お疲れ様」

名前ちゃんはそう微笑んでタオルを差し出してくれている。苦笑を浮かべると僕はそのタオルを受け取った。そしてタオルを首にかけて名前ちゃんの隣に座った。


「どうしたの、吹雪くん…。何かあった?」


話そうか迷った。だけどここで話してしまえば、アツヤにも、名前ちゃんにも迷惑になる気がした。そう察すると僕の口は自然と籠もる。



「私はずっと側にいるからね…離れてなんかいかないよ」


その瞬間に見えた名前ちゃんの表情はどこか寂しそうで、ぎゅっと胸が締め付けられた。

これが、好きって感情なんだって改めて感じる。やっぱり僕は名前ちゃんには側にいてもらいたいと心のどこかで願ってるんだ。

僕はその言葉で、どこか安心してしまったんだ。



「ありがとう名前ちゃん…」


僕はこれから、たくさんの壁にぶつかっていくのだろう。新たに出会う仲間と共に。

だけど、僕は絶対に諦めない。どんなに分厚い壁にぶち当たっても。僕には名前ちゃんが側にいてくれるんだ。ひとりぼっちじゃない。


だから、だから。


叶わない恋だとしても、君のこと好きでいさせてください―…。




願わくば


僕は前に進み続ける…。

そんな温かい笑顔が、そう僕の背中を押してくれたんだ―…。


end.

なんか微妙な終わり方に…。どうしてもいい感じに終われなかったんですアァ…。

みずき様キリリクということで吹雪でした!!
白恋中舞台で、士郎かアツヤとのことでしたが、選ぶことが出来ず、中途半端な作品になってしまいました(泣)
すみません、、、
もう一つの吹雪短編に続いている感じですので、そちらも見て下さればと思います!!
完結版ということで、若干そちらのお話の方をキリリクとして差し上げている感じでもありますが、←オイ

初めてのふぶきゅん楽しかったです!!
みずき様、リクエストありがとうございました!!

次のお話は、アツヤになった時のことを少し描写しているので、そこに注目して読んで下さればこちらの話と繋がるんではないかと思います!!

では!

2012.7.22

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