優しくて温かいあなたの家族



「ねぇねぇ名前ちゃん!聞いた?帰ってくるんだって吹雪くん!」

早朝、それは私が雪道をゆっくり歩き部活に向かおうとしていた時のこと。下の方からそんなような声が聞こえた。

後ろから藁を被った小柄な子、紺子ちゃんが走ってきて私にそう笑顔を向けていた。


エイリア学園との戦いは雷門の勝利で終わった。ようやく長い戦いが終わったのだ。

一時期吹雪くんの様子がおかしかったのは気付いている。だけど最後の試合、吹雪くんに失ったモノが蘇ったのを見て、私は安堵の笑みを浮かべると小さく目に涙を溜めた。


ずっと1人で抱え込んでいた吹雪くん。私は不安だった。精神的不安定な状態で彼を送り出すことを。彼にはアツヤくんがいたから、1人で2つの人格を抱えるなんて彼に相当負担がかかる。いつ吹雪くんが壊れてもおかしくない状態だったから。

だけど、ようやく彼は見つけた。答えを、仲間と一つになるということを。

その紺子ちゃんの話を聞いた私はいてもたってもいられなかった。

ついに、その吹雪くんが帰ってくるんだ。そう思うと、長い間会っていなかったためずっと溜めていた想いが一気に溢れ出した。


「名前…ちゃん?」

「っ…ごめんね、なんでもないよ」


私は涙を見せまいと手の甲で急いで涙を拭った。だけどやっぱり抑えることは出来なかった。


「っ…ごめん紺子ちゃん…。ちょっと先行っててくれるかな」

「う…うん分かった…!」

パタパタと部室に向かって走っていく紺子ちゃんの背中を見つめると、私の頬から一粒の涙が零れ落ちた。

やっと彼に会える。やっと、やっと、愛しの彼に。私は嬉しくて嬉しくて泣いた。嬉し涙はいつまで経ってもとまらなかった。


1人雪道の上で泣いていた時、ぱっと見えた1つの影に私は目を見開けた。流れるように出ていた涙もようやく止まる。

忘れることのなかった影。以前見た時よりも逞しくなったその影に私は言葉を失った。


「ふぶ、き…くん?」

「ただいま…名前ちゃん」

「うぅっ…ふ、ぶきくん…吹雪くん!」

私は彼の胸に飛び込んだ。一時期止まった涙はまたしても溢れ出た。


「おかえりなさい、おかえりなさい…!」

ぎゅっと抱きしめた部分から彼の体温を感じるとようやく彼が帰ってきたことを実感した。嘘じゃない、今確かに、彼はここにいる。

吹雪くんがぎゅっと抱き返してくれたことに私は安心を感じる。私たちは特別な関係というわけではないけれども、この関係が心地よくて、温かくて、私は大好きだった。


「名前ちゃん…ちょっとお願い…いいかな?」

「お願い…?」


吹雪くんは私を離しいつもと変わらぬ優しい笑顔を浮かべると、どこからか1つのマフラーを取り出した。

見覚えがないわけはない。確かにコレはアツヤくんのマフラーだった。そのマフラーを吹雪くんは私に差し出していた。


「コレは…」

「コレを名前ちゃんに持っていてほしいんだ」

「私が…?でもアツヤくんは…」


「きっとそのほうがアツヤも喜ぶよ。だから、お願いしていいかな…」


吹雪くんはニコッと私に微笑みかける。

吹雪くんがそのマフラーを手放すということは"アツヤくんと一緒にいられなくなってしまう"ということ。そう思うと私は受け取るに受け取れなくなってしまった。

私がその笑顔とマフラーを交互に見ると、吹雪くんは付け加えるように胸に手を当てて口を開いた。


「それに…アツヤは僕の中で生きてるから」


その瞳は真剣で、偽りはない。もう何も心配することはないんだと私は察した。

確かにアツヤくんは生きている。吹雪士郎という人物の中で、私の記憶の中で。


「うん…」

私は彼からマフラーを受け取った。

その瞬間、懐かしい彼の声が聞こえた気がした。



『士郎を…宜しくな…』


と…。

雪の中へ消えていくような小さなその声。でも確かに聞こえたんだ…。

サァァっとそよ風が私たちの髪を揺らす。



「行こう、名前ちゃん…」

「行こっか…士郎くん…」

私たちは部室へ向かうべく一歩を踏み出した。右手には温もり。その温もりに私はふふっと笑った。そしてゆっくり天を仰ぎ私は心の中でそっと囁いた。



―アツヤくん。こんな私でも、彼の隣にいることを許してくれますか?

私なんて頼りないけど、吹雪くんの、士郎くんの側で支えたい。

あなたの支えがあったから私も士郎くんもここまで来れた。士郎くんにとって、あなたは特別な存在。もちろん、私にとっても。

あなたはずっと心配していたね。独り身である士郎くんのことを。


「もし、本当に士郎が独りになったときは…お前が士郎の側にいてやってほしい。それと…吹雪くんじゃなくて、士郎くんって呼んでやってくれ。もう士郎は俺じゃなくなるんだからな…」

自分はここに居れないと悟っていたから出たその言葉。それが、今この時なんだろう。

あの時から私は決意していた。

ずっと彼の側にいる、と―…。




優しくて温かいあなたの家族


絶対に忘れないよ。

今も、これからもずっとずっと―…。


私たちは、あなたが大好きだから。



雪道に映る2つの影はゆっくり繋がっていった…。


end.

夢企画サイト『Amore!』様に提出した作品でした!!
そしてみずき様キリリクの『願わくば君の側で』の続編?です。
こちらの方が纏まった話なんじゃないかなと…(;´д⊂)

安定の切甘、スミマセンやっぱり私好きです←

こちらの夢企画サイト様は今回の募集で最後とのことで悲しいですが…すごく楽しかったです!!
二度もありがとうございました!!

士郎寄りかアツヤ寄りか…謎の結末でしたが(やっぱり
楽しかったです!!

読んでくださりありがとうございました!!

2012.7.22

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