幸せなあなたとの想い出
「いよいよフットボールフロンティア全国大会決勝!雷門中対世宇子中の試合が始まります」
大きな歓声の中、私は観客席から彼を見守る。大好きだった、風丸くんの姿を。
彼は今、サッカーという競技のフィールドに立っている。そんな彼はなんだかとてもキラキラ輝いているように見えて、陸上部にいた頃はもう遠い昔であるような気がしてしまった。
「ピー」という試合開始の笛と同時に走り出す雷門中のみんな。それと連動するかのように私はあの日のことを思い出していた。
私は、陸上部であった風丸くんを見送った。サッカー部の助っ人になると告げた彼を。
私は陸上部のマネージャーとして寂しい想いを抱きながらも、笑顔で見送ると決めた。
ずっと彼の隣にいたい。それはサッカー部のマネージャーになれば叶うことだった。でもそんな想いも押し殺し、私は陸上部に残ることを決めた。
陸上の楽しさを教えてくれたのは彼だから。一緒にいたいという想いはあったけれど、彼が教えてくれた陸上の楽しさを忘れたくなかった。遠回りなのかもしれない。だけど、私は大好きな陸上で、風丸くんと繋がっていたいと思った。決して近いものではない、遠い繋がり方だけれど、それが私にとったら一番幸せな方法。
そして私は今、陸上部のマネージャーとして、1人のファンとして、ここに座っている。
「良かったらまた今度…試合見にきてくれないか…?」
「……うん、もちろん!」
彼が陸上部にいた最後の日に交わした約束。それを果たしに私はここに来た。
雷門はこうして決勝にまで勝ち上がってきた。だんだんと大きくなっていく彼の背中が妙に遠く感じて、ほんの少し、寂しさで胸が熱くなった。それと同時に、新たな道を進み始めた風丸くんに、"好き"という強い想いがまた募った。
倒れては立ち上がる。傷つきながらも決して諦めない雷門中のみんな。風丸くんも諦めることはなかった。
結果は優勝。その結果を目で見た時、じんわりと目頭が熱くなった。
席を立って目指すは彼の元。私は空に舞う紙吹雪に目を細めながらも彼に会うべく会場を後にした。
「優勝おめでとう…風丸くん」
「名前…ありがとう。応援に来てくれて…」
「約束、したもんね…!」
彼を前にしたとき、また泣きそうになってしまった。あんなに遠かった彼が、今こんなにも近くにいる。前まではずっと近くにいたのに、それはもう今では叶わない。
彼の身体には無数の傷。それにチクリと胸を痛めたが、それは今まで雷門中サッカー部として頑張ってきた何よりの証拠だった。
「俺…サッカー部に入って良かったと思ってる…」
「うん…。後悔はしてないんだね…」
「あぁ…」
「なら、良かった…」
願わくばずっと隣にいて欲しい。でも彼がサッカー部にいることを望むのなら、私はそれを願う。
どんなに離れ離れになろうとも、それは私の望みでもあるから。
アナタハ今"シアワセ"デスカ?
彼と一緒にいた陸上のフィールドでの想い出は、全て過去形になってしまったけれど。
道は変わってもしっかり前を向いて進んでいきたい。
幸せな、あなたとの想い出を胸に―…。
サッカー部の仲間の元へと走る彼の背中を見て、切実にそう思った…。
end.
【あなた】をコンセプトにした夢企画サイト『Amore!』様へ提出した夢小説でした!!
こちらは風丸中編、空色キャンバスの続編と考えていただけたらなぁと思います!!
安定の切甘…(笑)
お互いに好きなのに、それ以上の関係になれない、進めない、そんなもどかしい恋を執筆するのが好きなようです、私は(笑)
少しでも楽しんでいただけたのなら嬉しいです(*´`*)
2012.5.22