抱きしめ方も知らないくせに



「名字、なんでそんなに怒ってんだよ!」

「別に怒ってなんかない!」

「じゃあなんでそんな態度なんだよ…。俺に当たってきたって分かるわけないだろ…!」

「だから怒ってないってばっ!半田のバカ、中途半端!」

「なっ…」


今日の放課後。私はまた喧嘩してしまった。密かに想いを寄せている半田と。


別に半田は悪くない。ただ、私が勝手に嫉妬して勝手に怒ってるだけ。罪もないこの半田に。


ついムキになって言ってしまったあの言葉も、本当に思っているわけじゃない。
寧ろ反対だった。


みんなはよく半端半端っていう。でも、半田のサッカーやってる姿を見ればいつでも一生懸命で、半端なんて言えなくなる。


だけど、私は半田が一番傷つくその言葉を本人に言い捨てると、目に涙を浮かべ逃げるようにその場から去った。




バカだなぁ…私。

言ってから、去ってから後悔した。
もっと素直になりたい。なれればいいのにって。


半田が私には見せないような笑顔を他の女の子に見せて。
そんな半田を見て、私は1人嫉妬する。

嫉妬だけで半田に当たる。自分の方がよっぽどバカだった。幼かった。


分かってるの。他の誰よりもそういう小さな嫉妬で半田と喧嘩をすることが多いんだって。


けど、やっぱり嫉妬せざるを得ないの。

だって、どんなに嫉妬してもやっぱり私は半田が好きなの。
私も女の子だから、やっぱり他の子に自分には見せないような笑顔を見せてると悲しくなるの。苦しいの。


喧嘩なんか本当はしたくない。喧嘩する度半田が離れていく。

そう思うとどうしようもなく涙が出てくるの。



「…ぅ…っぐ…バカぁ…」


部活にも行かずそのまま校門を去った私。特別することもなく、暗然たる思いでひたすら前に伸びる道を歩いていた。



するとどこからか一定のリズムで走る誰かの足音がした。

ビクンと肩を一瞬強ばらせると恐る恐る後ろを振り返った。



茶色の髪に双葉を揺らす彼。

そう、半田だった。


目を見開け眉を寄せると、こんな涙でぐちゃぐちゃになった顔を見せられまいと私は再び前を向いて走り出した。



これほど運動神経の悪さを恨んだことはあるだろうか。

あっという間に追い付かれた私は、追いかけてきた半田の手によって動きを止められてしまった。


右腕には強い圧力。

私は逃げたいという気持ちが募り、半田の手を振り払うよう腕を大きく回した。



「離してよ…っ!」


でも、半田の手は離れない。
ぎゅっと強い圧力をかけたまま、半田は何も言わなかった。


抵抗する気力さえもなくした私は、ただただ俯き唇を噛み締めた。




「なぁ…どうしたんだよ…。悪いことしたなら謝るからさ…」


「……っ…。だからぁ…っ…何も…」


嫉妬した、なんて言えるわけがない。

言ったら嫌われる。分かってる、そんなこと。


でも、溢れ出す想いはもう止まることはなかった。




「半田が…っ…私の気持ちに、気付かないからぁ……」


「っ…!名字…」


ぐちゃぐちゃな顔というのも忘れ半田にそう声を張って言うと、半田はびっくりしたような表情を見せた。


震える唇を微かに動かし何か言いたげにしていたが、開きかけた唇をまた閉じる。

そして真剣な瞳に戻すと半田は掴んでいる方の手を勢いよく後ろに下げた。




「ごめん…。俺、気付かなくって…」



強引に引いたように見えて。でも半田は優しく、震えるその手でゆっくりと私を抱きしめてくれた。


だから、私は嫌いになれないの。

そうやって抱きしめたこともないくせに私を優しく抱きしめてくれる。

私のこと好きなわけでもないのに、そうやって震える手で抱きしめてくれるから。




「バカ…だったら気付けよ、俺の気持ちも…。こんなにも…好きなのに。名字は…名前は特別なんだよ…」



だから、好きじゃないって分かってたけど期待しちゃうの。

追いかけにきてくれて嬉しい、なんて思っちゃうの。



でも、


「半田のバカ…っ…」



今回だけは本当に、期待しても…いいのかな。





「…ありがとう。私も、私も好き…」



抱きしめ方も知らないくせに


私がそう言うと、

不器用ながらも、彼の手にゆっくりと力が込められた―…。


end.

[喧嘩]をコンセプトにした企画サイト『愛を喰らえ』様に提出した作品でした(^O^)

これまた長くなってしまい…(;´д⊂)
イナズマイレブンの短編はどうやら長くなってしまうようです(笑)

ちょっと最後のほう上手く繋げられませんでしたが楽しかったです!!
ありがとうございましたっ

2012.4.7

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