届かない、君への唄。

【半田視点】


「しーんいち!」

「わっ!名前!いきなり飛びつくなよ…」

「えへへー」


それは、長かった部活が終わりちょうど校門を出ようとした時のことだった。


突然、名前を呼ばれたかと思えば次の瞬間には背中に強い圧力。そして腰回りには色白い手。


パッと振り返って見れば予想通りの人物。俺に対してこんなことするのはいつだって幼なじみの名前だけだった。


初めほど緊張することはなくなったが、名前がそうするたび未だに高鳴る俺の心臓。
そんな心情を悟られないようにと俺は必死に平常心を保とうとした。


名前はふにゃりと柔らかい笑みを浮かべると、そっと俺から離れた。そして横に並んでくると俺に部活帰りかと聞いてきた。


今日は土曜日ということもあり部活は午前中だけ。もちろん、後は帰るだけだった。



「そうだけど…。それがどうかしたのか?」


「えへへ、午後から暇?ちょっと付き合ってもらいたいことあって…」


「別に、俺でいいなら…」


「ありがと真一!実は行きたかった所あったんだー!」


名前は俺の返事を聞くとテンションを上げて、ルンルンと軽くスキップして俺の前を行った。


午後からちょっと見たいテレビがあった、なんて結局言えずOKの返事をしてしまったが、元気な名前の姿を見たらそんなことさえどうでもよく感じた。


ふっと俺が微笑むと名前は振り返って「こっちこっち!」と笑顔を向けてきた。

そんな様子を見て俺は歩幅を少し大きめにし名前に追い付いていった―…。



その後もただただ名前と一緒にどこか回ったり、食べ物を食べたりと普通の時間を過ごした。

ただそれだけなのに、それが楽しくて嬉しくて、何より名前といられることが幸せに感じた。



「真一!真一!」


ただその四文字だけなのに、その声が響くたび、俺の心臓はそれと比例するように飛び跳ねる。


その四文字を聞くだけで、何だか不思議と安心感が湧いてくる。


その四文字を聞くたび、"愛されてんだな"って恋愛対象とは違う意味で実感する。



それが心地良くて、でも幼なじみ以上の存在になれないもどかしさも募る。


でも、ただ俺はその先に行く勇気を持っていなかっただけなのかもしれない。

この関係を崩したくないがために、俺は自分の気持ちから目を逸らしているのかもしれない。


まだ名付けるには早い、俺のその気持ちを肯定してしまう時、

"この関係が崩れてしまう"

そんな気がしたんだ…。



辺りが暗くなり始めた夕暮れ時、俺たちは近くにある河川敷に向かいそこのベンチで一休みすることを決めた。



「今日はありがと!久しぶりで楽しかった!」

「んー…。俺も…」


途中で買ったクレープを平らげながらそう返事すると、名前は妙に静かになった。

不思議に思って名前を見るが、俯いた状態だったので表情を伺うことは出来ない。


不可解に感じながらも最後の一口を口にした時、コツンと名前は俺の肩に身を任せるように頭を乗せてきた。



「名前!?」


いつもとは違う名前の行動に戸惑う俺だったが、そんな俺に構わず名前は口を開けた。



「ねぇ真一…」



眠たいだけなのか、少し低めの声でそっと囁くように俺の名前を呼んだ。

その声に妙にドキドキして、胸が高鳴って、俺は黙りこくることしか出来なかった。




「真一は、私のこと、どう…思ってる…?」



ゆっくり、一つずつ言葉を紡ぎ出す名前。俺がその言葉を理解するには時間がかかった。



本当だったら真っ先に思い浮かべるのは、あの二文字のはずだった。


でも、浮かんでは消え、浮かんでは消えの繰り返しで言葉になることはなかった。




「やっぱり…幼なじみ、なんだよね…」


震えるような声でそういうと名前は俺の制服のズボンをぎゅっと握った。

それが何を意味するのか。やっぱり俺の頭じゃ理解は出来ない。


しばらくしてその手が緩んだかと思うと、今度は耳元でスースーという名前の寝息が聞こえた。



俺は名前が寝たのか確認すると、まだ脚の上にある名前の手に自分の手を重ね、そっと頬に触れた。




本当はずっと分かってたんだ。自分の気持ちに。

ただ、それを伝える言葉が見つからなかっただけなんだ―…。


答えは単純で、シンプルで、何も飾ることなんてする必要はなかった。




「好き…だよ」



今となっては言葉となる、誰にも届かないその唄は静かに夕暮れの空へと消えていった…。



今こんなにも近くにいるのに、こんなにも遠くに感じる"幼なじみ"という存在に虚しさを感じながらも、俺は静かに目を閉じた…。


目覚めた時、幼なじみ以上の関係になっていたらな、なんて無謀な夢を見ながら―…。



end.

ひゃぁ…長いです(笑)

[幼なじみ]をテーマとした企画サイト『となり』様に提出した夢でした(^^ゞ
本当は、「本当はずっと分かってた、ただそれを伝える言葉が見つからなかっただけ」という題で提出させていただきましたが、長いということもありこちらのサイトの都合上、勝手に解釈し略させていただきました。

唄というのが煩わしかったかもしれませんが…。
=言葉と思ってもらって構いません(^O^)

理想をバンバンに詰め込んだ夢なのです…。
稲妻短編、やっぱり最初は半田くんでした!!

シンプルだとか単純だとか全く同じ意味ですがそのあたりは気にせずに…(゜∨゜;)

多分もうこんなに長い短編はありません(笑)!!

2012.3.4

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