変わらない仲間へ (98/109)
【佐久間視点】
いつもの帝国グラウンドへの道を進んでいく。松葉杖を巧みに使い道を進んでいくとワイワイとした声が聞こえてくる。それと同時に光が差し込んだ。
「やってるな鬼道」
「来てくれたか、佐久間、源田、みんな!」
帝国グラウンドへ着くとそこには練習を続ける雷門イレブンがあった。俺たちの存在に気付いた鬼道はこちらに駆けてくる。
「鬼道、みんなを呼んでいたのか」
「あぁ、久しぶりだな」
そう、俺たちを呼んだのは鬼道だ。だから俺たちは今ここにいる。鬼道は俺の脇にある松葉杖を見ると眉を寄せた。
「あぁ…心配するな。これでも順調に回復してるんだ」
「雷門の監督が紹介してくれた最新治療がよく効いているみたいだ」
源田は手を肩あたりまであげるとそう言葉を紡いだ。
確かにあの監督が紹介してくれた治療の効果だと思う。あんなに動かなかった俺の身体もここまで動くようになった。
「瞳子監督が…?そうか、良かったな鬼道」
「あぁ」
それと同時に思い出したのはアイツの笑顔だった。アイツの存在もここまで来れた1つの理由だと思う。
「世宇子の…アフロディ…?話は鬼道から聞いた。お前も俺たちと同じように、影山に利用されていただけだと。鬼道や円堂たちをよろしく頼む」
ふと雷門イレブンを見るとそこにはアフロディがいた。俺は、このアフロディに負け、一度目の入院をした。
確かに最初は悔しかった。負けたことが悔しくて、それがただただ力を求めエイリア石に頼る1つの原因になったのかもしれない。だけどもう妬みなんて感じない。今は宇宙人と戦う1人の選手だ。鬼道や円堂を支える1人、俺は純粋に応援したいと思う。
「さぁ鬼道、始めようか。練習試合」
「練習試合…?」
俺のその言葉を始めとし、みんなはそれぞれのポジションに立った。
「どうして…円堂くんたちが帝国側に…?」
その言葉で俺はフィールドの中央辺りを見た。そこには帝国ユニフォームを身に纏う円堂がポリポリと頬を掻く姿があった。
「デスゾーンは帝国が開発した必殺技。習得するには実際に俺たち帝国と一緒にプレーしたほうがいいって…鬼道がね」
「言われてみれば…」
「でもなんか変な感じ」
俺は静かに笑った。それと同時に辺見と寺門がキックオフのホイッスルで前線へと駆け込んでいくのが見えた。
「あら、どうして笑ってるのかしら」
俺がその様子をベンチから見ていると隣にいた雷門マネージャーが何のつもりかそんなことを言い出した。
「いや…ただ…やっと恩返しが出来るんだなってな…」
「恩返し?」
思い出すのはあの日のこと。
『諦めなければまたサッカー、やれるようになるよ…。私も、きっと鬼道くんも、ずっと…待ってるから』
『俺たちも何か鬼道の役に立ちたいな…』
『うーん…そうだな』
『きっと鬼道くんも喜ぶよ!』
俺はまだサッカーはやれてはいないけれど、こうしてフィールドに戻ってきた。サッカーをやるために。
そして、些細なことなのかもしれないけど、こうして帝国と練習試合をすることにより、鬼道たちが何かを掴めるのなら。
「約束したのさ。アイツと。力になるんだって…」
「へぇ…それは随分興味深い話ね。後で聞かせてもらおうかしら」
「はは…それは参ったな」
諦めるわけにはいかないんだ。鬼道も、アイツもまだ諦めてないんだから。俺が、俺らが先に諦めてはいけない。
俺はその後も続くデスゾーンの特訓をひたすら見つめていた…。
「鬼道、久しぶりに帝国の鬼道が見れて嬉しかった」
「佐久間…」
ハーフタイム。俺は鬼道と言葉を交わす。
俺はここで、ベンチで久しぶりの鬼道を見て、ずっと感じていたことがあった。
「でも…雷門にいるほうがお前は自分を出せているのかもしれない。グラウンドの外からのほうがよく分かるんだ」
そう、鬼道はもう、歴とした雷門イレブン。
ずっと鬼道を目標とし、ずっと鬼道を見ていたから分かるんだ。
鬼道は、今のほうが輝いてるんだって…。
「コイツらは常にお前を刺激してくれる。帝国にいたときよりもプレーにお前らしさがでている。だから…もう俺も源田もそして帝国のみんなもお前に裏切られたとは思っていない」
最初は雷門に転校したと聞いて驚いた。
鬼道はアフロディに勝つためとは言え、俺たちを置いていった。
最初はそう感じていた。だけどそれは違うんだって気がついた。俺も、帝国のみんなも。
だから、もう責めるつもりはない。みんながお前を応援しているんだ。
「…ありがとう」
鬼道はベンチを立ち、帝国イレブンを見つめた。きっとその目からは迷いは消えているんだろう。
俺は寂しさも込めて、静かに笑った―…。
変わらない仲間へ
鬼道は嘗ての、いや、今もこれからもずっと俺たちの仲間だ。
その仲間へ、アイツと約束した恩返しを今、果たす時。
―…ありがとう、鬼道。
to be continued...
(2017.11.15)
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