守るべき大切なモノ (97/109)
【風丸視点】
朝比奈は泣きながら帰ってきた。相当精神的に来ているらしい。
俺はそんな朝比奈の様子を見て半田に目配せをした。半田も困惑しているようだったがキリッと眉を寄せると朝比奈に近付いていった。
そしてゆっくり、朝比奈を慰めていく。
朝比奈はそれでも泣き続けた。今まで溜めてきた涙を一気に流すかのように…。
俺は初めて朝比奈の涙を見た。びっくりした。朝比奈も涙を浮かべるのだと。
いつも朝比奈は温かな笑顔を浮かべる。そんな朝比奈だから涙は無縁なんだとずっと思っていた。
だけど今日、朝比奈の涙を見て、胸が酷く痛んだ。
いつもは優しく温かく俺たちに笑顔を向けていてくれていた。そんな太陽は今ここにはない。
俺は初めて気付いた。悲しいと感じるのはやっぱり朝比奈も一緒だったんだって…。
普段涙を見せないものだから忘れかけていた。朝比奈だってきちんとした哀という感情を抱くんだって…。
俺は強く決意した。
守らなきゃって…。もう、朝比奈に悲しませるようなことはしてはダメなんだって…。
強く、誰よりも強くなって、朝比奈を守らなきゃいけない、と…。
半田の元でしばらく泣いていると朝比奈は落ち着きを取り戻していった。
落ち着きを取り戻した朝比奈はポツポツと先ほどあったことを話していった。
ここで改めて感じた感情は、半田と、みんなと一緒だったなんてお互いが知るはずはない。
やっぱり、強く、強くならなければ…と。
身体が、精神が、弱い。もっともっと強くならなければ。円堂みたいに、イナズマキャラバンのみんなみたいに。
それで、コイツを守らなければならない、と。
弱いままじゃ何も守れない。今回だって己の弱さのせいで朝比奈を泣かせてしまっているようなもの。
弱いままじゃダメなんだ。もっと、もっと強くならなければ…。
俺は歯を食いしばって身体の横で握り拳を固めた。それは、強くならなければという想いの象徴だった。
朝比奈が平常心を取り戻したと察すると俺たちは練習に取りかかった。それに合わせて朝比奈も、早速作ってくれた俺たちの練習メニューを手渡してくれた。
俺の目は真っ直ぐ前を見つめている。
強くなるために。誰よりも強く、そして誰よりも速く走らなければならない。
大切なモノを、手放さないためにも―…。
ただひたすら、俺たちは練習に励む。
それが、その目が、少しずつ、濁っているとも気付かずに―…。
守るべき大切なモノ
ただ、その純粋な笑顔だけを求めて、俺たちは闇へと沈んでいく―…。
だけど、俺たちを照らしていたその太陽にも次第に雲がかかってきていたなんて、強さだけを求め始めていた俺たちには気付くことは出来なかった…。
「グランを倒し、ジェネシスの称号を奪いとってやる」
「そしてジェネシス計画にふさわしいのは誰かということをあのお方に示すのだ」
「「ネオジェネシス計画をここに発動する」」
太陽の霧は、また1つ、濃くなる―…。
to be continued...
(2017.11.15)
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